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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
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戦乱の宵の国と黒(3)

 扉が開き、クロウは自らの右腕とも呼べる存在を見て、苦笑した。

「戦争は終わったんだ。少しは気を抜いたらどうだ?」

クロウが自らの膝に目を向けると、黒は消えていた。どうせ、ヴァネッサには見えないのだから、姿を隠す必要などないとクロウは思うのだが、黒はたびたび姿を消してしまう。いつもクロウの近くにいるのだが、そもそも人間であるクロウと色である黒は存在する世界が違うのだろう。だからクロウは黒のことをあまり詮索するつもりは無かった。第一、愛らしい容姿をしていようとも、黒はクロウより遥かに長い年月を生きているのだから。

「そんなつもりはない」

ヴァネッサは金色の髪をきっちりと一つに束ね、蒼い目でクロウを睨みつけた。黒い軍服は、手足の長さを際立たせて見せていた。

「俺は、昔の優しいヴァネッサに戻ってくれると信じていたのだけれども」

クロウは立ち上がり、ヴァネッサに歩み寄った。

「父上の復讐はもう止めないか?俺たちは宵の国を統一した。きっと、王も分かってくれる」

ヴァネッサは少しも姿勢を崩さず、クロウは生じた距離を疎ましく思った。昔は、クロウがヴァネッサを追いかけていた。軍師になったのも、ヴァネッサに近づくためだとも言える。ラエ国に彼女あり。と呼ばれた美しきラエ国の皇女。それがヴァネッサであった。十年前、ラエ国が滅亡の危機に瀕していたのは、ヴァネッサを嫁にと願った隣国国王の申し出を、ラエ国国王が拒否したからに始まる。ラエ国がクロウを手にする前に、ヴァネッサの父は壮絶な討ち死にをした。まるで、氷の女王のようになってしまったヴァネッサと共に、クロウは宵の国を統一したのだ。

「父上のことは関係ない。私は、あなたが黒い髪と黒い目を手にした時に、すべての道を感じたのだから」

ヴァネッサは抑揚の無い声でクロウに告げた。宵の国は黒を高貴とする国である。黒の国であるが、黒い髪と黒い目を持った存在はクロウ一人である。だからこそ、クロウは神格化される。他人と違うということが、クロウの権威を高めているのだ。クロウは自らの名を捨てたときに、これまでの外見も捨てた。茶色の髪も、緑色の目も捨てたのだ。

「そんなこと、言うなよ。小さな島国火の国では、民の全てが黒い髪と黒い目をしているんだぞ。赤を司る色神紅でさえ同じだ。国によって文化なんて違うんだよ。宵の国はこれまで長い戦乱の国であったから、異国のことも異色のことも気にすることは無かった。けれども、これからは違う。宵の国は黒にふさわしい国にならなくてはならないんだ。黒が他の色に劣ることが無いように、俺たちはこれからも歩み続けなくてはならないんだ」

クロウはヴァネッサに言った。クロウとなる前、ヴァネッサはいつも近くにいた。気安く話し、気安く笑い、小国であるラエ国は綱渡りをするような平和を保ち続けていた。つかの間の平和であっても、その中で輝くヴァネッサの姿が本物のヴァネッサだ。明るく強い性格。そして、光がこぼれるような笑顔。馬を操り草原を駆け、弓で的を打ち抜く。それがヴァネッサだ。クロウは、本当のヴァネッサの姿を忘れたことは無かった。

 宵の国は平和になった。クロウが二十八の小国を統一したから、国内の戦争は生じない。しかし、問題は山積していた。かつての小国の間には文化的、思想的な隔たりがあり、経済力も異なる。中央に権力を集中させるための機関が無ければ、人材もいない。いつ、戦争が生じるか分からない火種はくすぶり続けている。クロウ一人で広大な宵の国をまとめ続けるには限界がある。権力を願う者にとってクロウは邪魔でしかない。いつ、殺されるか分からない。そして、名軍師であるクロウでさえ道を誤るかもしれない。そもそも、クロウは軍師であり、政治家でないのだから。クロウはこれから宵の国をどのようにまとめていけば良いのか分からないのだ。

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