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一色  作者: 相原ミヤ
異国と火の国
123/785

戦乱の宵の国と黒(1)

 黒い屋敷。

 黒い廊下。

 黒い壁。


 黒の中で男は小さく笑った。広い部屋の中の一段高くなった場所に、豪勢な黒い椅子に男は膝を立てて座っていた。男はだらしなく椅子の肘掛にもたれかかり、黒い石を覗き込み、笑いを必死にかみ殺していた。黒いシャツのボタンを少しはずし、黒いブーツの紐はほどけている。黒い髪をくしゃくしゃにし、黒い瞳は遠い異国を見ていた。


――ちょっと、あんた何笑っているのよ!

男の目の前に黒い少女が現れた。バルーン型の黒いスカートに、黒いタイツをはいている。ツインテールに結んだ黒い髪には、合わせたように黒いリボンを結んでいる。ここで、黒い日傘でも誘うものなら、黒で統一された人形だ。まるで作り物の人形のように少女は飛び跳ね、男に駆け寄った。男は少女を見るたびに、何とも言えない愛しい気持ちになるのだ。小さく人懐こい子が、色を象徴する存在であるのだから、色の世界は人知を超えたものだ。少女が力をくれたから、今の己があることを、男は忘れたことが無かった。少女がいなければ、間違いなく男は殺されていた。己に価値を与えたのも、少女なのだ。驕り恩を忘れる者は身を滅ぼす。だから男は驕らない。

 少女が先刻まで、遠く離れた土地にいた。男が足を運んだことも無い遠い異国だ。男は少女が見ていたのと近い光景を覗いていた。少女が力を見た少年を見ていた。

「いや、黒。火の国とは面白い国だと思ってな」

男は自分にしか見えない少女に笑った。少女は男に懐く猫のように、男の膝の上に手と顎を乗せた。


 少女は黒であり、少女が懐く男こそ宵の国を統べる色神黒であった。

――ねえ、クロウ。クロウは見ていたんでしょ。

黒が愛らしい目で見上げるから、男は思わず微笑んだ。

「もちろん。遠く離れた小さな島国を守る者がどのような者か気になってね。しっかり見ていたよ。黒が身を引く様子をね。そこに無色がいることを知りながら」

男は黒の頭を撫でた。

――仕方ないじゃない。あれ以上粘ったら、あたしが野暮ってもんよ。あたしにはクロウがいるから大丈夫。クロウは、この国を守ってくれたから。あたしは無色を見つけた。クロウは火の国を見た。クロウはこれからどうするの?火の国をどうするの?しつこく手紙を書いていたんでしょ。

男は答えた。

「赤が選んだ紅は、容易く折れたりしないだろうな。あれは強情そうな子だ。何度手紙を書いたところで、無視されるのは当然だろう。無色が火の国にいるのなら、俺自身が足を運ぶまでだ。ちょうど良いきっかけが出来た。そういうことだろ」

男は、自信に満ちた目で遠く離れた異国「火の国」を思い描いていた。

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