戦いの果てに赤は笑う(4)
紅は縁側から垂らした足をゆらゆらと揺らしながら、嬉しそうに笑っていた。
「長い戦いが終わったんだ。少しはゆっくりしなきゃな」
紅はそのまま、後ろにのけぞって横になった。横になったまま大きく背伸びをした紅は笑った。
「はしたないなんて頑固なこと言うなよ」
義藤は笑い、紅と同じように横になり空を見上げていた。二人が同じ姿勢で横になっている。悠真はそれを何とも言えない気持ちで見つめるしか出来なかった。
「俺たちの前で気遣うな。ただ、小猿が呆れているだけだ。火の国の民を幻滅させるな」
義藤は優しく話した。すると、紅は笑った。
「小猿なら気にしないさ。私と近しい存在だからな」
紅は笑いながら言っているが、悠真は背に汗が流れる気持ちがした。紅は全てを知っている。これから、悠真をめぐって火の国が戦乱に巻き込まれる危険性があることを、紅は知っているはずだ。紅は半身を起こすと、悠真を手招いた。
「?」
戸惑う悠真に紅は笑った。
「小猿も一緒にどうだ?」
太陽の光の中で笑う紅は、紅城の一室で香を焚く人物とは別人のようであった。健康的で、光の中にいる紅は失われた故郷の海が似合う存在だ。紅は身体を起こし、戸惑う悠真の腕を掴むと隣に引き倒した。引っ張られて、縁側に寝転がった悠真は、紅と義藤と三人で空を見上げた。見上げた空は、澄んだように青い。先日の騒乱も、戦いも、残酷に煌く赤も、全てが嘘のようであった。ここでは、平穏な時が流れている。静かな空間で、紅はゆっくりと言った。
「義藤、これから何があろうとも小猿を守ってくれないか?小猿は己の身を守るための十分な力を持っていない。これから、悠真を守ってくれ」
紅が義藤に依頼し、義藤は苦笑した。
「紅がそう言うのなら。赤丸と一緒に悠真を守ろう。悠真が一人前に立つ日が来るまで、俺が仲間に守られていたように。野江たちと共に、俺は紅と悠真と一緒だ」
義藤が悠真を受け入れてくれた。それがとても嬉しく感じた。
「これから、火の国は騒乱に巻き込まれるだろう。異色が火の国に侵入しようとしている。それでも、私たちは毅然として立たなくてはならない。赤い色が強い力と覚悟で私たちを守ってくれるから、私たちはその期待に応えなくてはならない。赤を消さないために。私は仲間と共に火の国と民を守る。赤を守る」
紅の強い覚悟だった。
無色と悠真は「火の国」にいる。これから異色が火の国に来ようとも、火の国は揺るがない。鮮烈な赤を放つ色神紅と、優れた赤の仲間たちがいるから。
悠真が空を見上げていると、横に赤の気配を感じた。赤は強い色を放ちながら、笑っていた。
――戦いの果てに赤は笑う。
鮮烈な赤と共に。
「一色」
火の国と紅の石
完
「一色」をここまで読んでいただき、ありがとうございました。第122話目を持ちまして、火の国の話がひと段落となります。次なる展開につなげるために、次話より異国の話が短編で続きます。新たな国、新たな色、新たな文化、新たな人が登場します。紅城に残った悠真が術士となるために奮闘する前に、視点を変えた物語も楽しんでいただけると嬉しいです。
次話が異国ということで、これまで使っていなかった「カタカナ」をどんどん使っていきます。最初は黒の国「宵の国」です。これからもよろしくお願いいたします。