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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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戦いの果てに赤は笑う(1)

 下村登一の乱は大きな悲劇を生み出した。


 悠真の故郷を滅ぼし、悠真の大切な人たちを殺した。


 使用人として囲った人たちの大切な人を殺した。


 大きな憎しみと悲しみを生み出した。


 悠真を守り血を流した義藤。

 野江を庇った鶴蔵。

 燃え上がった秋幸。

 斬りあった春市と千夏。


 彼らは大きな傷を負い、そして今もここにいる。瀕死の状態だった義藤と秋幸は白の石で傷を癒した。紅が信頼する赤い色を託された人が、誰も命を落とさなかったのは不幸中の幸いだ。そして二人は二年前の都南と佐久のように代償を支払わずに済んだ。鶴蔵も無事だった。思いのほか、傷は浅かったらしい。白の石の予備が無かったからこそ、鶴蔵が無事であったことが奇跡のように嬉しく思えるのだ。そして悠真は鶴蔵が傷ついたときの、野江の取り乱しようを悠真は忘れることが出来ない。

 誰も口にしないが、悠真は偽者の義藤の正体に気づいていた。あの時、義藤の代わりをしていたのは忠藤だ。あれほど似た顔をした人物が二人といるはずが無い。義藤が双子であったことを考えるならば、偽者の義藤は忠藤であると考えるのが自然だ。死んだとされる義藤の兄「忠藤」。ならば、なぜ死んだはずの忠藤が生きているのか。それは、忠藤が赤丸であるからだろう。赤影に入るということは、表の世界から姿を消すということ。つまり、死ぬということだ。忠藤は赤丸として生きるために、弟の義藤の前から姿を消したのだろう。

 義藤を救うために、義藤の代わりとして姿を現した赤丸。義藤と赤丸は似ている。見た目は同じ。けれども、一色が違う。


――優しいが強い忠藤

――強いが優しい義藤


 義藤は強いが命を奪うこと嫌う。赤丸は優しいが大切な人を守るためなら、他人の命を奪う。それが、忠藤が赤丸となった理由だろう。赤丸は十日ほど、義藤の代わりをしていたが、再度義藤と入れ替わった。一色が違うから、悠真は赤丸と義藤の違いが簡単に出来た。二人が入れ替わったことに気づいたのか、秋幸が、とても悲しそうな目をしただけだ。

 あの時、秋幸は義藤と赤丸が入れ替わったことに気づいていた。秋幸が悠真と一緒に惣次の石を探しに行くと決めたときだ。悠真は、なぜ秋幸が二人の違いに気づいたのか分からない。義藤の兄忠藤は赤丸だ。それに気づけば義藤の品の良さが理解できる。忠藤と義藤の母は赤丸だ。忠藤が母の後を継いだと、義藤が話していた。ならば、忠藤と義藤の父は誰なのか。悠真は考えかけたが、それ以上詮索するのは止めた。何者であっても、彼らが彼らであることに偽りはないのだ。強く優しい色が、優しく強い色が、二人の強さと人格を示していた。


 春市、千夏、秋幸、冬彦の四人は、紅からの咎めを受けることは無かった。それは紅の計らいであり、彼らの選択であった。紅は彼らに術士とて紅の下で働くことを命じ、彼らはそれを承諾した。だから罪に問われなかったのだ。

 彼ら四人は術士になった。彼らの立場を強固にするように、紅は異例とも呼べる速さで配属先を決めたそうだ。遠次の眉間に皺が深くなったのが証拠だ。春市と千夏は朱軍に配属され、紅の石を使えない都南を支えることになる。都南の負担も軽減するに違いない。秋幸は朱護として義藤の下に配属された。人当り良く、周囲に目を配ることが出来る存在だ。義藤の負担も減るに違いない。そして最年少の冬彦は術士として野江の下に配属された。潜在能力は兄弟随一で、これから野江の下で学ぶことになる。将来を期待しての配属だろう。四人は生きる道を見つけた。悠真はそれが羨ましかった。

 残されたのは悠真だ。悠真は先の見えない生活を送っていた。紅城は格式高く肩が凝る。故郷が滅びた孤独は続き、悠真の将来は閉ざされている。復讐が無意味だと知り、生きる希望も無い。術士でない。色に狙われる不安はあった。けれども、紅城にいる限り、悠真は一人になる時間が無かった。赤い羽織の人たちが、まるで付き添うように悠真の近くにいるからだ。紅は悠真が得体の知れない色を持っていることに気づき、見張りを立てているのかもしれない。八百万の色を支配し、八百万の色の力を持ち、八百万の色が狙う色と力。悠真は無色を一色に持っているから。紅が悠真の正体に気づいているのか、悠真には皆目検討がつかないのだけれども。

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