赤と無色(2)
見た目は紅なのに、色も紅と同じなのに、彼女は紅でない。まるで、何者かが紅の容姿と色を写し取ったようだった。
「私はあなたを選んだ。八百万の色は私の支配化であり、悠真の支配下にある」
紅の姿をした彼女は悠真に歩み寄り、そっと悠真の手を取った。色白のその手は、透けて見えた。
「一体、誰なんだ?」
悠真は彼女に尋ねた。紅でないことは明らかだ。無色な声。無色が紅の姿をしているのだ。
「一体、誰なんだ?」
分かっていても、再び悠真は彼女に尋ねた。
「私が悠真を守る。あなたは私の器であり、私はあなたの色だから」
彼女は美しく微笑んだ。悠真は彼女を見た。
「紅は赤に選ばれて色神となった。俺はあなたに選ばれた。教えて欲しいんだ。俺は一体どうなるんだ?術士として戦っていけるのか?」
悠真の矢継ぎ早の問いに、紅の姿をした無色な彼女は微笑んだ。
「私は無色。あなたを選んだのは偶然。それでも、あなたは私の色に相応しいわ」
悠真は彼女を見た。
「本当の姿は?」
彼女は微笑み、紅の姿は変じた。そこにいたのは、色白の肌をした女性だった。どこか透けた印象がある以外は何の特徴もない。衣装が火の国のものと異なる程度だ。
「私は本当の姿を持たないの。色を持っていないから。今はあなたに合わせた色に変じているだけ。これは、六百年前に私が姿を見せたときに選んだ人間の姿。流の国の民だったわ。悠真、お聞きなさい。無色は、何色にも染まることが出来る色。何色でも使いこなすことが出来る。無色を制する色は世界を制する。どの色も私を狙い、己の色にしようとしているわ。私が色を選んだとき、私が選んだ色が色の覇権を制する。だから、色たちは悠真に近づく。もちろん、悠真は紅の石を使うことが出来るわ。無色って言ってみれば、すべての色との相性が良いということだから。けれども、染まりすぎて危ない時は私が止めるわ。だから、石の使い方を学びなさい。私は人間の中に隠れ続け、色たちから逃げ続けていたから、今まで、無色が姿を現すことは無かったわ。今回は、偶然、あなたを守るために石を使わせてしまい、赤があなたの存在に気づいたのよ。それは、六百年前と同じ。流の国を救うために姿を見せたときとね。もちろん、赤に呼応して、全ての色があなたの存在に気づいたわ。色が近づいてくる。安全のためにも、紅の下へ身を寄せなさい。義藤たちと共にいなさい。今の紅は優れた子だから、赤も滅多なことをしてこないわ。赤は、見た目と異なり人間を守るために動いてくれる。そういう人なの」
無色はそっと悠真に手を伸ばした。そして、強く抱きしめたのだ。その感触は、母を思い出させた。
「悠真が色を選ぶことで世界は変わる。大丈夫、私が、悠真と共に歩むから」
彼女は強く微笑んだ。透き通った、無色の笑みだ。
悠真は無色とともに歩むのだ。