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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と無色(1)

 夢を見た。色の無い世界でで、紅がしどけなく座っていた。豪華な着物も簪もない。けれども彼女の周囲の雰囲気は優美で華やかだった。紅の周りは穏やかな赤い光があった。火の国の人間の心の中には、赤い色が生きている。火の国は赤によって守られている。色神「紅」がこの国を守っている。赤にまつわる色。「紅」は色神を示す。色神を守る力を「朱」という。紅の石を使う術士を「緋」という。そして、紅が使う刃を「赤」という。彼らが赤というのは、赤以外の何者でもないから。存在としては、紅以上に己を消し去る必要がある。陽緋野江を中心とする術士は緋。朱将都南を中心とする朱群は朱。赤丸を中心とする赤影は赤。彼らが紅を守っている。

「紅」

悠真は紅を呼んだ。紅は美しく、そして強い。紅を憎んだ時もあった。なのに、悠真は紅を愛する者たちに守られていたのだ。悠真は帰る場所を失った。誰を憎んでも、誰を嫌っても、悠真に帰る場所は戻ってこない。故郷を滅ぼした隠れ術士も悪い人ではなかった。ならば、何が悪なのか。一つの出来事も、視点を変えれば正義にもなり悪にもなる。悠真はそれを知った。悠真の故郷を滅ぼした四人を憎むことは出来ない。彼らは必死なだけだった。それが望む結末にならないと知っていても、戦う必要があったのだ。それは悠真が殺されるのを覚悟で復讐を誓ったのと同じこと。悠真の中には正解の無い難題が転がっていた。

「どうした?」

紅がゆっくりと振り返った。化粧をしていないのに、紅は美しい。他人のことを美しいと思うことなんて、紅に会うまではなかった。優しく微笑む紅に悠真は心惹かれていた。

「俺は分からないんだ」

悠真は紅に言った。何が正義なのか、何が悪なのか、これからどのように生きてゆけば良いのか、何も分からない。すると、紅は微笑んだ。

「案ずるな」

一言、その一言が悠真に大きな意味を与えた。

 世界は色で満ちている。八百万の色。悠真は全ての色が美しいと思った。色は個性であり、見る人によって異なる色に見える。悠真と紅が同じ赤を見ても、その赤は同じでない。


 紅の周りに赤が漂う。向きを変えれば、黒が、白が、青が、黄が、悠真を見ていた。色は生きている。全ての色が悠真を染めようと近づいてきていた。紅が赤であるように、全ての人は色を持つ。なのに、悠真は自分の一色が分からない。いかなる色にも愛されていて、いかなる色も悠真の支配下にあるように思えた。それはとてもおこがましいことだろう。色神は色を支配する。

「色は力を持つ」

紅が悠真に言った。紅の周りは鮮烈な赤で囲まれている。

「知っているよ」

悠真は答えた。色は力。赤は熱源を生み、黒は異形の者を生む。この戦いで否応無く痛感させられた。色の石を使用できる術士は、只人よりも遥かなる力を持つ。色の石を使わず、術士と戦えるのは都南くらいだ。都南は例外の中の例外だ。

「いや、悠真は何も知らない」

紅が言った。赤い色は美しく、力強い。紅を象徴するような色だ。

「紅の石は熱源を生む。その力は術士によって加工され、さまざまな力になる。そういうことだろ」

悠真は紅に言った。すると、紅は片手を悠真に差し出した。手の先から赤い光が零れ落ちていた。紅の声は赤く咲き、紅の周囲や赤く輝いた。

「違う。赤は紅を利用して紅の石を生み出し、紅の石を生み出すために紅を守ろうとする。だから赤は紅を傷つけない。黒は色神黒を守り、紅を傷つける。色は己の力を示そうとし、己の器だけを守り生かす。だから紅は、赤以外の色を支配することが出来ない。色神とは、色神と呼ばれる人間たちの中に住まう者を言うんだ。それぞれの色には神がいる。その神が人に住み着き、器となった人は色神となる。赤は傲慢で強い女性。紅は赤に従っているに過ぎない。赤は紅を、石を生み出す器と考え、紅を守る。赤は紅を守る」

紅はそこまで言うと、微笑んだ。

「悠真は違う。八百万の色が悠真を染めようとする。一色に無色を持つ世界に唯一の存在。八百万の色が悠真の支配化にあり、悠真を染めようと狙っている。悠真は紅よりも遥かに強い存在。悠真が選んだ色が、色の覇権を手にすることが出来る。色の頂点に立つことが出来る。だから、色神は己の器を使って、色の力を使って悠真を狙ってくる」

悠真は紅を見た。彼女は紅なのに、紅でない。

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