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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(15)

 渦の中に足を踏み入れた悠真に、赤も黒も危害を加えなかった。僅かに振り返れば、赤と黒の二人の色は悠真に向かって微笑みかけていた。


 悠真が願えば黒の力は収束していく。

 赤が紅に手を向けると、紅の持つ紅の石が悠真の周りの赤の力を収束させていく。


 黒に染まることで黒の色神と同等の力を手にした悠真に、黒は襲い掛かることが無く、赤が色神紅の力を使って赤が悠真に襲い掛からないようにしていく。


 悠真の周りだけ、色が避けて進む。


 蹲る黒。

 それは異形の者。


 異形の者は赤い力に押さえ付けられていた。醜悪で、異臭を放つ異形の者。目だけが黒く輝く。悠真は異形の者の頬に手を伸ばした。

 異形の者に対する恐ろしさは無かった。今、黒に染まっているからかもしれない。醜いのに愛しく感じるのだ。異形の者が赤い力に押さえつけられていることが不憫に感じるのだ。

「かわいそうに」

異形の者は怯えていた。一人、故郷から離れて遠い異国の地に来てしまったから。赤の国である火の国で誕生し、赤の力に押さえつけられ、何度も斬られ、怯えている。醜いけれども、強い黒が満ちている。異形の目の先に、悠真はまだ見ぬ色神黒を見た。色神黒は、この様子をじっと見ているのだ。ここは赤の国。火の国だ。悠真は色神黒にこれ以上覗かれぬよう、異形の元に語りかけた。

「いい子だ」

悠真が言うと、異形の者は嬉しそうに目を細め鳴いた。飼い主に甘える子犬のように、とても嬉しそうに鳴いたのだ。

「おやすみ」

悠真の言葉に従うように、異形の者は目を閉じた。そして黒は悠真の身体に呑み込まれるように、収束していったのだ。


 そこには色を失い、砕け、色を失った黒の石の残骸だけがあった。


――また、合間見えるときがくるじゃろうな。

――すぐに黒を連れて行くからね。


赤と黒は悠真に言い残し姿を消した。


 悠真は辺りを見渡した。紅を始めとし、優れた術士たちが悠真を見つめていた。倒れた鶴蔵。惣次の石を悠真の代わりに使った秋幸も目を開かない。鶴蔵の傍らで膝を折り、顔を覆う野江。肩で荒く息をする佐久と遠次と冬彦。野江に声をかけ、鶴蔵の傷を調べる都南。そして、強い目で悠真を見る紅。激しい嵐が過ぎ去ったかのように、辺りは静まり、悠真は激しい疲労に襲われた。

――頑張ったわね。

無色な声が悠真の心の中で囁くように言った。

「悠真」

紅が一言、悠真の名を呼んだ。怒りでも、憎しみでも、蔑むでもない。温かく、優しく、美しい声。その声が赤く輝き、悠真の身体を満たしてゆく。どうして色が分かるのか、悠真には分からない。けれども、すべての色は悠真の味方である。悠真を染めようと近づき、時に狙う。悠真の身体の力が抜けた。どちらが空で、どちらが地なのか分からない。そこにあるのは、赤い色。悠真は地に崩れ落ちた。痛みは無い。そのまま、意識を手放してしまったから。


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