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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(14)

 黒と同じように無色も悠真の背を押した。

――行きなさい。悠真。

無色な声が悠真に勇気を与えた。悠真は一人でないのだ。不思議なことに、今の悠真に異形の者への恐怖は無い。黒は悠真に服従している。悠真は黒にもなれる。だから、異形の者は悠真に危害を加えることは出来ない。そう思った。


  赤は燃える炎の色。強い力と灯りを示す。

  黒は深い闇の色。誰もが恐れる恐怖を示す。


 わらべ歌のように悠真の頭に言葉が響いた。


「悠真君!駄目だ!」

佐久が何度も悠真を呼んだが、直接止めることは無かった。手を離して悠真の相手をする余裕が無いのだ。佐久が石の力を弱めたとき、異形の者は放たれるのだから。


 赤と黒が渦巻く。その中に足を踏み入れれば命を落とすことは明らかだが、悠真に恐怖は無い。色は力だが、恐怖は無い。黒も例外でない。悠真の身体は何かに操られ、心はとても平静だ。目の前に赤と黒の力の渦が迫り、悠真はその中へ足を進めた。

――小猿。小猿は強い力を持っておる。その力の使い方、誤るでないぞ。小猿を信じたわらわに恥をかかせるでないぞ。進め。わらわの力も貸そうぞ。わらわが紅の力を使って、小猿を守ろうぞ。案ずるな。赤も黒も小猿を傷つけぬ。

赤が扇子で扇ぎながら言った。


 赤と黒の渦の横に、赤と黒が立っていた。

――小猿が止まれと申すのなら。

赤が言った。

――あんた、いつかあたしの色になんなさい。

黒が言った。二人の女性は気高く、美しく微笑んだ。今、目の前で生じている赤と黒の争いなど、稚児の遊戯だと言うように。二人は左右に分かれ、悠真に道を開けた。悠真が色を止めようとするのを笑って受け入れていた。

――ここは互いに手を引こうぞ。

赤が黒に言った。

――当然ね。ここで、小猿を死なせることは出来ないわ。せっかく六百年ぶりに無色の居所を知ったんだから。あたしの黒を連れてくるまでは、あたしの色で死なせたりしない。

黒が腕を組んで言った。

――どちらが優れた色か、決戦は後日に回そうぞ。のお、黒よ。

赤は黒を挑発しているようだった。それでも、これ以上二人が争うつもりが無いことを悠真は感じていた。

――何偉そうに言ってんのよ。こんなの序章に過ぎないんだから。今回は、小猿に花を持たせてあげるわ。

言い残し、黒は後ろへ下がった。

――わらわも、今、小猿を傷つけるつもりはあらぬ。行け。

赤も後ろへ下がった。

 赤が紅に扇子を向けた。


「止まれ!死ぬぞ!」

紅の声が響いた。その声さえも、悠真を止める力を有さなかった。声だけでは悠真は止まらない。しかし、赤の術士たちは全力で異形の者を抑えている。手を離して悠真の腕を掴むことが出来るほどの余裕がないのだ。

「止まってくれ!悠真!」

紅に名を呼ばれ、悠真は思わず足を止めた。悠真は紅に目を向けるたびに、彼女の強さと気品に心を奪われる。紅がいるから、悠真の世界は光り輝くのだ。名を呼ばれるだけで嬉しいなんてこと、これまで悠真は経験したことが無かった。紅を中心にまとまる赤の術士たちは赤の仲間となる。

「悠真!」

紅が再び悠真の名を叫んだ。赤と黒の力の渦に近づく悠真を止めるために、都南が悠真に向かって走り出していた。都南に止められる前に行かなければならない。進まなければならない。この、赤の黒の攻防を終わらせなければならない。


 悠真の五感は研ぎ澄まされ、色が表す感情も、癖も、些細な変化も、すべてを感じることが出来た。紅の気持ちも、佐久の気持ちも、義藤の気持ちも、遠次や冬彦の気持ちも、すべて感じることが出来た。全てが色となり、悠真に教えていたのだ。その中で悠真が分かったのは、義藤の一色が悠真の知る義藤の一色でないこと。仮説は正しかった。義藤は別人になったのだ。義藤が 別人になったという事実は、悠真をさほど驚かせることは無かった。色は正直だから。今の義藤の「優しいが強い色」を悠真は感じていた。


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