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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(13)

 黒は嬉しそうに笑うと、跳ねる鞠のように悠真に近づいてきた。黒い手袋をはめた手が悠真の顎を掴み、黒は顔を近づけてきた。

――へえ、これが赤が未来を見たって言う小猿ね。確かに、小猿。小猿、あたしの力貸して欲しい?あの異形の者を止めるために、あたしの力を貸して欲しい?

黒はころころと笑い、跳ねるように悠真から離れた。悠真は再度、紅たちの戦いを見た。一日とは、はかり知れないほど長い時間だ。紅の力の要ともいえる野江が力尽きた。残るは、紅、佐久、遠次、義藤、冬彦、そして赤影の力。彼らの力にも底はある。今にも遠次と冬彦は力尽きそうであった。今、力が必要であった。この赤と黒の攻防を終わらせるための力が必要であった。

「力が欲しい」

悠真は願った。世界に存在する色。赤は力を生み出す。黒は異形の者を生み出す。白は傷や病を癒す。青は水を操る。緑は植物を育てる。燈は獣と心を交わす。黄は土壌を豊かにする。他にも、この世に存在する色は力を持っている。各色には神がいる。色に選ばれた人間が色神として色の石を生み出す。赤を司るのは紅。紅は赤において最強だが、他の色に対しては色神の力を影響させることが出来ない。ならば、異形の者を生み出す黒の石を、黒を司るのは色神黒。色神黒でなければ、登一を生かしたまま、この状況を打開することはできない。ここに色神黒は存在しない。

「俺は、力が欲しいんだ。無力な小猿のままじゃ駄目なんだ」

悠真の脳裏にこの数日の出来事が鮮明に蘇った。土砂に呑まれる故郷。命を落とす惣次。悠真を守るために刃に倒れた義藤。悠真の代わりに惣次の石を使って燃え上がった秋幸。全ては悠真が無力だから生じた状況だ。悠真に力があれば、傷つかない人もいたのだ。

――悠真、あなたは何色にでもなれる。あなたなら、この状況を打開できる。

無色な声が悠真に言った。その声は悠真にしか聞こえない。

――人は誰しも色を持つ。決して同じ色は存在しないのよ。悠真、あなたは私の色。全ての色たちが、喉から手が出るほど欲しい色。これから波乱に巻き込まれることもあるかもしれない。それでも、あなたは力を望んだ。願いなさい。黒に力を借りなさい。染まらないように、調整してあげるわ。

無色な声が悠真に語りかけ、悠真は心の中で無色に頷いた。


 悠真は再び異形の者を見た。紅たちより地に押し付けられている。それでも、黒の強さは変わらない。

「黒」

悠真は黒を見た。

――特別に貸してあげるわ。あたしの力をね。感謝なさい。

黒が濡れた大きな目を細めて笑った。


 黒とは何か。赤と何が違うのか。どのような色なのか。


 心の中を空虚にし、そこに黒を招き入れる。


 ここだ。


 黒。


 ここだ。


 心に黒を招き入れる。世界を黒に染めていく。

すると、悠真の心は黒い色に包まれ、世界が黒になったように思えた。慣れ親しんだ赤から離れ、黒に寄り添っていく。そんな中で、悠真は黒を感じた。

 心に黒い風が吹き込む。黒い風が悠真を染めていく。

「黒、終わりにしよう」

まるで、何者かが悠真の身体を奪い取ったようだった。悠真の身体の中を赤や黒や、いろいろな色が通り抜けていった。通り抜ける途中、黒だけが悠真の身体に残り、悠真の足元に黒がひれ伏した。色が悠真に服従した。悠真は色神黒と同等の力を手にしたのだ。

――今の小猿ならいけるよ。今、あんたは色神黒と同じ力を持っているんだからね。

黒が悠真の背を押した。


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