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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(12)

 黒は地団太を踏み、小さく舌打ちをした。

――つまり、あんたは無色が選んだ者を気に入ったってわけね。あたしも馬鹿じゃないの。赤の頑固さを知っているつもりよ。赤は、気に入った、いえ愛した人を守るために何を捨てても惜しまぬ存在。気に入ったという言葉では表現できないほどの感情を持つから、あたしは愛したと表現するの。赤は、無色が選んだ者を愛しているのね。だから、守ろうとする。

赤は皮肉に笑った。

――愛しておるという表現は間違っておるの。確かにわらわは、紅や赤の術士たちを愛しておる。されど、小猿にそれほどの感情はあらぬ。されど、小猿の将来を見てみたいと思うのじゃ。小猿が、永遠に続く色たちの愚かな覇権の取り合いを終わらせてくれると信じておるのじゃ。

赤が不敵に笑った。

――わらわたちの争いは悠久の年月続いておる。果たして、わらわたちに未来はあるのかの?人の命を巻き込まぬよう、互いの国を決めた時、戦いは終わったと信じておった。されど、何も変わらぬ。争いは続くのじゃ。これからも永劫にの。わらわは無色を見つけた時に思ったのじゃ。この、悪しき争いを終わらせることが出来るのではないかとの。人の命を巻き込むことは許さぬ。これは色の争いであり、人の争いにあらぬ。命を巻き込むことは許さぬ。人を殺すことは許さぬ。これが、わらわの信念じゃ。この信念を曲げることはせぬ。

そして赤は一呼吸おいて続けた。

――わらわたちは出来るはずじゃ。互いの色を真に美しいと思いあい、色で満ちた世界を愛することがの。のお、黒。主にも分かるはずじゃ。主は、今選んだ者を気に入っておるのじゃろ。宵の国の内紛を治めた優れた色神をの。人を巻き込んで殺すのは、無色の顔を立てて止めぬか?わらわは逃げぬ。そして。無色も選んだ者を捨てぬじゃろ。黒、手を引け。わらわは、ここで主と争うつもりはあらぬ。

鮮烈な赤色が一層強まった。それは黒を掻き消すほどの力であった。黒が萎縮し、一歩後ろへ下がったことを、悠真は見逃さなかった。赤が黒を押している。同時に、黒が赤に負けぬと色を強めた。

 赤と黒が渦巻いていた。良くも悪くもここは火の国。赤の国だ。地の利は赤にあった。

――のお、黒。今回ばかりは手を引け。

黒は赤に押されて、表情を歪めながらも譲らなかった。

――赤、今回ばかりは手を引いても良いわよ。でもね、あの異形の者は下村登一を殺さない限り止らないわよ。止めれるとすれば、あたしの選んだ色神黒ぐらいだけれど、彼は宵の国にいる。止めれないわよ。でも、下村登一を殺したくないというのは、変わらないのでしょ。だったら、無色にあたしの力を貸してあげるわ。一時的に無色が黒に染まれば、あの黒の力を打ち消すことが出来るわよ。それこそ、色神黒のようにね。あたしに、あの異形の者を止めろって言うの?それは無理。赤だって分かっているでしょ。あたしたちは、形の無い存在。その影響は、己の生み出した色神にしか作用できない。そのために、無色が選んだという小猿を出しなさい。

赤は悔しそうに目を細めた。

――赤、もう良いわ。ありがとう。

ふと、無色の声が響いた。黒が驚いたように目を見開き、赤と黒は互いの色を発するのを止めた。無色な声は空気を中和していく。これが、黒が狙う無色なのだ。

――あんた、ずっと隠れていたわけね。

黒が口惜しそうに言い、愛らしい顔の口元を歪めた。

――私は、ずっと迷っていたの。けれども、今は逃げないと決めたわ。悠真も逃げないと決めた。だから、私は逃げない。私は宣言するの。何色にも染まらないと。黒、悠真に力を貸してあげて頂戴。そして、赤も悠真を助けて頂戴。

そして無色な声は言った。

――ありがとう。赤。

無色な声が言ったとき、赤が悠真の手を離した。強くつかまれていた腕は、赤の手形がはっきりとついていた。


 紅たちは異形の者と戦い続けていた。彼らは必死だから、悠真のことなんて目に入っていない。そして、彼らには見えていない。ここで、赤と黒が争っていたことに。

――そんなところに、隠していたのね。

黒がはっきりと悠真を認知した。底知れぬ恐怖が悠真に沸き起こったのは、黒が悠真を喰おうとしているように思えたからだ。愛らしい表情を見せながら、黒は底知れぬ闇を抱えている。赤が守る火の国に生まれ育った悠真にとって、黒は異質な存在であった。異質で恐ろしかった。


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