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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(10)

まるで赤を脅すような無色な声に対し、赤は目を細め、一つ息を吐いた。赤い唇がゆっくりと動き、赤い言葉を綴った。


――主も口の悪さも昔から変わらぬ。誰しもが主を狙い、己の色の繁栄を願う。主が選んだ色が、色の頂点に立つのじゃからの。主が感じる重荷も耐え難いものじゃろう。主が、わらわの火の国の小猿を選んだのも想像がつく。主は小猿を死なせたくないのじゃろ。主は小猿を選んだのじゃからな。

赤が口を開いた。赤い声が花開く。なぜだろう。赤は時として残酷な色に豹変するのに、今の赤は慈しみと愛に満ちている。

――口を悪くし虚勢を示す。主の本質をわらわは知っておる。だから、主が心から願うのなら、わらわは主に力を貸そうぞ。

赤は帯に挟んでいた扇子を引き抜き開いた。赤い扇子は紙で出来ているはずなのに、煌びやかな赤色をまとっていた。それは、女王の貫禄であった。無色な声はゆっくりと口を開いた。

――もう、助けを求めるしか出来ないのよ。あなたなら分かるでしょ。私は悠真を殺したくない。あなたが色神紅を護りたいと願うようにね。

無色な声と赤は色の世界の存在たちだ。赤が赤い瞳で愛おしそうに赤の仲間たちを見た。

――利害は一致しておる。主とわらわは同じ願いを持っておる以上、わらわは主に協力するしかないじゃろ。されど、口惜しいの。こしゃくな小娘黒がすぐそこに来ておる。主を探しておるぞ。主の小猿を探しておるぞ。今は、わらわの影に隠れておるが、小猿が一時的にでもわらわの色を手にすれば、黒は小猿の存在を見抜くじゃろうな。一度で火の国に小猿がおることを見抜き、二度目で紅城におることを見抜き、三度目で正体を見抜く。

赤が扇子で扇ぎながら言った。赤い扇子が赤い風を生み出す。

――色神黒が見ておるぞ。黒の奴もここに来ておる。ほら、わらわが力を緩めれば、すぐさに姿を見せる。のお黒。どうやって、火の国に入り込んだのじゃ?

赤が言った直後、黒い髪と黒い服を着た女性がそこにいた。女性と称すには年齢が若かった。十四、五の見た目。小柄な身体は小さく跳ねる鞠のようであった。異国の存在だから、衣装は悠真が見たことの無いものだった。表現するに難しい。

――何だ、気づいていたのね。つまんないの。

黒の色神は不服そうに頬を含まらせた。


 高飛車な雰囲気は赤と少し異なる。それが黒であった。


 黒の存在に苛立ちを露にしていた赤が、扇子で顔を仰ぎながら黒を一瞥した。

――無断に互いの国へ侵入するのは、違反ではないのかえ?

ここでも赤と黒の攻防が始まっていた。少し先では、異形の者を赤の術士たちが押さえつけている。ここでは、赤の色神と黒の色神が対峙している。

――あら、固いこと言うのね。無色を隠していたのはどこの誰かしら?

鞠のように跳ねる口調で黒は言った。

――わらわは隠しておらぬ。無色が勝手に火の国にいついただけじゃ。約束を違えてまで他国に侵入するような者に苦情を言われる筋合いはあらぬ。

さらに、黒とは異なり、重厚のある口調で赤は告げた。

――火の国を主にやるつもりはない。己の国に帰るのじゃな。

 黒はころころと転がる鞠のように笑った。

――あら、あたしは火の国なんて興味はないの。隠しているでしょ。無色を。そして、無色が選んだ者をね。あたしが興味あるのはそっち。こんな小さな島国を奪ったって、大した利益は無いでしょ。隠すのは止めなさいよ。無色は流の国に居ついていると思っていたけれど、いつの間にか火の国にいるんだから。こっちとしては、想定外の行動よ。流の国ならば、色が守っていないから容易く進入できるのに、火の国には赤がいる。容易く進入できないじゃない。

ころころと跳ねる鞠のように笑う黒は、色白の頬を赤く染め、濡れた黒い大きな目をぱちりと見開き、赤に顔を近づけた。まるで、威嚇するような仕草であった。黒は口元をほころばせると、くるりと身を翻し赤から少し距離をとった。

――隠しているでしょ。無色を。無色の選んだ者を。そんなことをするのは、赤のためにならなくてよ。昔の協定の時に、人間を庇うからこんな小さな島国に押しやられて。赤ほどの力があれば、あたしや白のように大国を手にすることも出来たって言うのに。そして、今度は何?無色に同情して、この島国さえ手放すつもりなの?いい、良く聞くのよ。確かに、あたしの色は戦乱を巻き起こす。あたしの色を与えた宵の国は戦争大好き、内紛が絶えない国よ。でも、今は違う。とうとう、宵の国を統一する者をあたしは探し出し、己の色を与えることが出来たの。彼はあたしに約束してくれたの。色の頂点に立たせてくれるって。覇権を握らせてくれるって。狙うのは、火の国。そして、無色よ。赤、聞きなさい。庇ったって、何にもならないのよ。

赤と黒は違う。それは、黒の姿形や衣装だけでなく本質的なもののようであった。決して相成れない赤と黒の二人は、赤の守る火の国で無色をめぐって戦っていた。

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