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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(7)


 紅の赤色は見るものをひきつけ、心を奪う。誰もを魅了する赤だった。強い赤は異形の者を押さえ付けた。義藤よりも、野江よりも、佐久よりも強い力。それが、色神の力だ。どんな術士よりも強い。遠次も紅の石を取り出した。冬彦も同様だ。そこにいる術士すべてが異形の者を押さえ付けるために力を尽くしていた。異形の者はその場に倒れた。しかし、消滅することはない。なぜなら、異形の者は不死だから。一日経たない限り、消えたりしない。鎖に縛られ、赤い力に押さえ込まれても、暴れ続けていた。

 悠真は辺りを見渡した。何度も息を深く吐く野江。目を細めて異形の者を見つめる佐久。唇を噛み締める義藤。片膝を地に折っているのは、遠次と冬彦。平然としているのは紅一人であった。そんな紅でさえ、赤い色が揺るぎ始めている。一日、この状態を続けるのは不可能であった。どんな人間であっても、全力を一日出し続けることは出来ない。なのに、彼らは止めない。登一を殺せば、全てが終わる。けれども、彼らは登一の命を奪うことをしない。登一を殺せば、登一の罪を明らかにすることが出来ない。異形の者も力を振り絞り、登一の憎しみに呼応するように、異形の者は立ち上がった。


「手を出せ!赤影!」


紅が叫んだ。このままでは赤が黒に破られてしまう。そういう時であった。


 赤影とは、裏の世界の存在だ。誰も赤影の正体を知らず、影で紅の刃となる存在。赤影がそこにいるのかと、悠真は辺りを見渡した。

 三方から新たな赤の力が加わった。その数は僅か三であった。


 十三年前、先代の紅を守るために赤影は戦い、大勢が殺された。そして、二年前の戦いで紅を護るために赤影は戦い、さらに殺された。もしかすると、今の赤影の数は三人なのかもしれない。僅か三。されど、三の赤影を加えた赤の力は強まり、強大な力で異形の者を押さえつけた。


 これはいつまで続くのだろうか。悠真は赤と黒の攻防を見つめることしか出来なかった。


 赤が勝利するのは一日黒を押さえつけた時だ。


 果たして、それが可能なのか……



「俺に力があれば……」

悠真は思わず口にした。手の中には、紅の石が無い。しかし悠真は思い出していた。故郷が滅びた嵐の日。あの時も悠真は無力な子供であった。紅城に足を運び、悠真は多少強くなったと思っていたのに、何も出来ないのだ。

「赤、力を貸してくれないか?」

思わず、そんなことを口にしていた。義藤が倒れてから姿を見せない赤。今、赤は何を思っているのだろうか。

 

 悠真は色を見た。


「頑張って」

応援をすることしか出来ない。

 赤影の参戦によって力を盛り返した赤の仲間たちであったが数刻も経つと様子は豹変した。黒を押さえ込む赤の格子に、亀裂が走った。紅、佐久、野江、遠次、冬彦、そして赤影。術を使うことが出来る者は、全力で石を使っていた。走る亀裂は野江を中心に生じている。目を向けると、疲労で表情を歪める野江がいた。野江はずっと紅の石を使っている。最初に紅の石を使い始め、陽緋として最強の力で異形の者を押さえ付けていた。野江が最初に倒れるのは当然のこと。野江の放つ赤が霞んだ。野江の赤が弱まり、亀裂を中心に赤の格子は砕けた。異形の者は隙をついて暴れ始めた。

「野江!」

その場にいた全ての人が叫んだ。異形の者は赤い鎖を断ち切り、改めて作り出された脆弱な格子を超え、野江へ爪を伸ばした。都南が刀を振りぬき、野江を守るために駆け出した。


 異形の者の爪は野江へと伸びる。


 黒い刃が弱まった野江の赤へと迫る。


 異形の者の爪の一振りで春市と千夏は倒された。野江が殺される。悠真はそう思った。野江が膝を折る。都南が走る。間に合わない。一瞬の思考。直感。都南は間に合わない。


――野江が殺される……


 歴代最強の陽緋野江が、こんな場所で倒されてしまう。


 義藤が紅を守る。


 同じように、野江を愛する人が彼女を守った。



 よれた着物。

 ぼさぼさ頭。


 この場にいたことを、悠真さえ忘れていた。身を呈した存在は、傷を負い、赤い血を流して倒れた。異形の者は再び野江に爪を伸ばした。次に野江を守ったのは都南であった。都南は異形の者の前足を、斬りおとした。野江の倒れた一角を覆うように、紅が力を広めた。赤を司る紅が色を広げ、野江の代わりを担った。再び作り出された格子と赤い鎖が、美しく、残酷に煌いた。

「紅、下村登一を殺すしかない!」

義藤が叫んだ。それしかない。悠真も分かっていた。


 赤の仲間たちは、既に限界に達していた。

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