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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(6)


 赤と黒の攻防は続く。



 黒い色は強大で、登一の歪んだ心を表していた。異形の者は紅の命を執拗に狙っている。それは登一が紅を羨望し、憎んだのと同じである。憎み、憎み、その憎みが異形の者に力を与えている。

 野江、佐久、そして義藤が全力で異形の者を押さえている。術の使えない都南は、動けない者たちを非難させると、再び赤い刀を抜き、足掻く異形の者の足や腕を切り落としていた。それは、一つの意志で動いているような連携であり、誰もが己の役割を知っていた。悠真が憧れる赤の仲間たちの強い絆と一体感であった。悠真が赤の仲間たちと異形の者、そして色の攻防を見ていると野江が叫んだ。

「佐久、空挺丸は動かせるわね。紅を非難させて。こんな状態、長くは続かないわ」

野江が叫ぶように佐久に言った。野江は全力で石を使い続けている。悠真は野江の強さを知った。異形の者が姿を現してから、野江は石を使い続けている。これが、歴代最強と呼ばれる陽緋野江の力なのだ。野江の力は爆発的に強大であるだけでなく、持続力も群を抜いている。同じ術を使う天才であっても、佐久とは少し異なる部類だ。美しい野江が、美しい赤色を放つ。色が見えるからこそ、悠真は野江の強さをわらためて感じた。

 野江の赤い力は異形の者を阻む格子となった。義藤の赤い力は異形の者の自由を奪う鎖となった。そして佐久の赤い力は二分し、丁寧に野江と義藤と補佐していた。器用な佐久らしい。誰一人が欠けても、この状況は維持できない。

「野江と義藤だけじゃ無理だ。僕が離れたら十分と持たずに喰われるよ!」

佐久は否定した。悠真が見ても分かる。佐久の力がなければ、異形の者を押えることは出来ない。

 必死なのだ。彼らは必死に、戦っていた。義藤と野江と佐久が全力で紅の石を使う。それで辛うじて押さえ付けているのだ。異形の者は隙あらば醜い身体を起こし、暴れようとする。だからこそ、野江は紅を非難させることを考えているのだ。万一の場合、紅だけでも救うために。佐久が動かないから、野江は義藤の偽物に言った。

「義藤、紅を連れてお逃げなさい」

叫ぶ野江の声を掻き消すように、義藤の偽物は義藤らしく否定した。

「無駄ですよ。紅の意志には誰も逆らえない。ほら、紅の意志はもう固まっている」

紅を思う野江と紅を良く知る偽物の義藤。あの義藤は偽物だが、紛らわしいので悠真はしばらくの間、義藤だと思うようにした。顔も同じ。紅を良く知っていることも同じ。ならば、彼は義藤だ。悠真が義藤に目を向ける中、紅は煙管を異形の者へ向けた。色の攻防が風を巻き起こし、紅の赤い着物が風でなびいていた。紅の赤い唇が強い言葉を放った。

「なぜ、黒の石がここにある?一介の官吏である下村登一が黒の石を自力で手に入れることができるはずがないはずだ。流の国だって、容易く黒の石を火の国に流したりしない。そんなことをすれば、火の国との貿易停止だと知っているからな。火の国と貿易が停止すれば、流の国だって多大な影響がでるだろ。この黒の石は、色神黒がわざと火の国に寄越したんだ。この黒の石は、色神黒が火の国に乗り込み、火の国を支配するための布石だ。宵の国は火の国を狙っている。宵の国の色神黒が、火の国へ足を運びたがっている。しつこく書が届くからな。火の国と紅の石を狙っているんだ。色神黒は、戦乱の宵の国をまとめた実力者。その黒にこんな石の力を持ち込まれては困るな。黒を火の国へ入れたりしない。火の国は赤の国だ。黒の好きにさせたりしない。そうだろ、赤。私に力を貸せ。黒に負けたくなければな。野江。私は引かない。この火の国は赤の国。赤は私の色だ。私が黒から逃げたと知られてみろ。赤い色が黒い色に負けたと、色が馬鹿にされる。それに、宵の国が調子付く。きっと、色神黒は、なんとかしてこの様子を探っているんだ。色神紅の人物像を探り、赤の力を探っている。黒に負けたとしてみろ。他の大国だって火の国を狙い始める。こんな小さな島国だ。頼りは赤の力のみ。だから私は引けない。私が逃げたり負けたりすることは、赤が逃げたり負けたりしたことになるからな」

紅が一つ息を吸い込むと、紅の身体は赤い光を放った。野江よりも、都南よりも、義藤よりも強く鮮烈な赤色だった。これが、悠真を魅了する鮮烈な赤色だ。誰よりも強く、誰よりも鮮烈。全ての空気を赤で染めていく。


 赤の色神である紅の参戦により、異形の者は大きくうごめいた。


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