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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(5)

 赤と黒の攻防は続く。春市と千夏を抱えた都南は、遠慮なく二人を空挺丸に投げ込んだ。

「後は、俺たちに任せて、ゆっくり休んでおけ」

動けない二人に、都南は優しく語りかけた。隠れ術士として紅と敵対し、はかり知れない重圧の中にいた二人に語りかけていた。


 悠真は見ていた。見ることしか出来なかった。力があれば何か出来るかもしれない。しかし、悠真は無力な小猿なのだ。


――力さえあれば。


 悠真は思った。己に力があれば、多少なりとも紅の力になれるはずなのだ。そして、隠れ術士たちの力になれるはずなのだ。


 義藤の紅の石の色が強まり、悠真は気づいた。紅の石は、術士によって輝きの色が異なる。それは、術士が持つ一色を表現している。野江の色は上品で落ち着きのある色。佐久の色は淡白で穏やかな色。術士の性格を反映している。義藤の色は二極性がある。静かだと思えば、いきなり苛烈な色になる。それが義藤の色。義藤とは似ていない色だ。一色が変わるはずが無い。義藤が別人になったという仮説が正しいかもしれない。今、悠真の目の前にいる義藤は、紅城で出会った朱護頭とは別人だ。今の義藤は、義藤でない。別人の義藤は、額に汗を浮かべながら術を使い続けている。

「都南、彼らも非難させて」

野江は再び術を使えない朱将都南に言った。

「任せとけ」

都南は言って、秋幸を抱えた。都南が秋幸を抱えた。佐久の赤い羽織に包まれて抱き上げられた秋幸は、力なく手足を投げ出しているが、黒焦げだった皮膚は元通りに戻っている。

 見渡せば、遠次が紅を空挺丸へと案内していた。赤に押さえつけられた黒い異形の者が下村登一の豪邸を崩していった。下村登一が多くの命を踏みにじり作り上げた豪邸は、子供が作り上げた積み木の城を壊すように、容易く崩れていく。こんなにも容易く崩されるもののために、多くの命が失われたのだ。

「小猿、お前も下がれ。守りきれる保障はない」

都南に言われ、悠真は秋幸を運ぶ都南を追った。それでも、異形の者から目を離すことが出来なかった。足掻く異形の者。押さえつける赤の仲間。


 足掻く黒。

 黒を飲み込もうとする赤。


――黒


――赤


――黒


――赤


赤と黒が争っていた。これは色の戦い。他の人に、この状況がどのように見えているのか分からないが、悠真には、色が覇権を争っているように見えた。黒は赤の支配する火の国で暴れ、赤を喰らおうとしている。赤と黒、どちらが勝った色なのか。どちらが美しい色なのか。どちらが、人の心を魅了する色なのか。それは誰にも分からない。この戦いの結末は、誰にも分からない。

 悠真は、火の国で生まれ育ち、赤い色が高貴な色だと思っていた。赤だけが特別だと思っていた。けれども、違うのだ。赤が特別なのは火の国でだけのこと。異国では異なる。黒の石を有する宵の国では、黒が特別な色なのだ。色は力を持つ。色は世界を輝かせ、未来を切り開く。人も己の色を持つ。悠真の目には、色だけが写っていた。


 これは、術士の戦いでない。色の戦いであった。

 これは、術士の戦いでない。火の国と宵の国。国と国の戦いであった。


 火の国は見せ付けられたのだ。大国宵の国の持つ黒い力がいかに強大か。宵の国の持つ力が火の国の内部に侵入していることを。火の国は見せ付けられたのだ。下村登一が使った、たった一つの黒の石が、火の国の優れた仲間を喰らうほどの力なのだ。


 強大な力。

 うずまく力。

 色が争い、色が喰らい合う。


「小猿、お前も下がれ」

都南が再度悠真に言った。しかし、色が悠真を惹きつける。この、色の戦いを止めるのは、悠真しかいない。なぜか、そのように思うのに、悠真は何も出来ない。

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