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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(3)

 赤と黒が争っていた。赤を操る陽緋野江。黒を扱う下村登一。

「下村登一は、黒との相性が良いみたいだね」

佐久の声には焦りが含まれていた。今でこそ、学者として落ち着いている佐久であるが、二年前までは朱護頭として術士の最前線にいた。二年前の戦いで、代償を支払わなければ、佐久は今でも野江と都南と肩を並べていたはずだ。その佐久が言うのだ。下村登一が生み出した異形の者がどれほど脅威か、いやでも教えられる。

「駄目だ……。野江、左だ!」

佐久が言った直後、異形の者は野江の作り出した格子を左から打ち砕き、紅に向かって走り始めた。異形の者が命を狙うのは、火の国で最も高貴で、火の国の民の生活を支える存在。異形の者の爪の先には紅がいた。

「待て!」

都南が叫んだ。都南も野江も紅を守ろうとした。


 野江は石を使い、複数の格子を作り出した。都南は紅の石で加工された刀を振るった。異形の者は薄い硝子を打ち砕くように、いとも容易く野江の作り出した赤の格子を打ち砕いた。紅と離れたところにいる野江では、異形の者を止めることが出来ない。それは、都南も同じだ。離れたところからでは、紅の石の力でしか紅を守れない。

 都南の刀は空気を歪め、力を薙ぎ払う。歪んだ空気の刃が異形の者を狙い、異形の者を傷つけるが倒れない。特殊な刀を持っているとはいえ、都南の力が活かされるのは接近戦だ。異形の者はまっすぐに紅に走り続けた。


――異形の者は止まらない。


 佐久も紅を守るために慌てて紅の石を取り出した。佐久の力は野江と都南を器用に補佐していく。陽緋野江に次ぐ術の使い手である佐久が戦う姿を悠真は初めて見た。佐久は強い。それは偽りの無いことだ。


――異形の者は止まらない。


 その爪が、火の国を支える色神紅を捕らえようとしていた。この火の国で最も強く、最も美しい存在を。

「紅!」

野江と都南と佐久が声をそろえて叫んだ。実力のある彼らが異形の者を止めることが出来ない。紅を守ることが出来る存在は誰もいない。

 都南を破り、佐久を破り、野江を破り、紅へ爪を伸ばした。


――異形の者は止まらない。


 悠真は身を固めた。美しい紅は煙管を優雅に持ったまま、少しも警戒していない。身の危険を感じていないようだ。


――黒じゃわらわの紅を倒せぬ。


まるで、赤がそう言ったように思えた。


 黒が赤を呑み込もうとする。赤が黒に倒される。どれほど赤が余裕であっても、今の状況は紅に不利だ。逆転のための好機はない。異形の者は止まらない。

「紅!」

その場にいた誰もが叫んだ。野江、都南、佐久は紅を守ろうとしたが間に合わない。遠次も動かない。悠真は目を閉じることさえ出来なかった。赤が呑み込まれる。黒に呑み込まれる。それを覚悟するしか出来なかった。

 目に浮かぶのは倒れる紅の姿。赤い血が糸を引き、赤い着物が血に落ちる。悠真はその光景を想像すると恐ろしくて、身動き一つ取れなかった。


――もう、駄目だ!!


 悠真が覚悟を決めたとき、紅と異形の者の間、そこに二つの影が割り込んだ。影は迷うことなく異形の者の前に立ちはだかった。


 身を呈して紅を守る存在は、紅の石の力で異形の者を弾き飛ばした。強い赤は異形の者の黒い力に勝った。弾き飛ばされた異形の者は、野江の力によって押さえつけられ、都南の刀によって前足を切り落とされた。足を斬りおとしても、異形の者はすぐに戻る。

 野江が全力を発揮し作り出した赤い格子も飛び越える。佐久も補佐も虚しいだけ。三人のしていることは時間稼ぎだ。

 野江の使う紅の石の力は強大で、悠真は身震いをした。赤と相性が良い野江。石の力を引き出す能力も他者を凌駕する。野江の赤い格子に押さえつけられながら、異形の者は吠えた。

(ぎゅるるる)

同時に、紅が笑った。

「やはり、お前じゃなきゃな」

紅は不敵に笑った。紅は己を守る存在がいることを知っているようで、影に向かって笑いかけた。

 あまりの速さのために、影に見えた存在。野江が作り出した赤の格子の光に照らされて、その顔がはっきりとする。二つの影のうち、一つは紅を守った存在。そして、もう一人は……。

 

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