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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と黒の攻防(2)

 異形の者の黒い力と義藤の赤い力が衝突し、辺りに力の風が舞った。義藤は後方へ弾き飛ばされ屋敷の障子へとぶつかり、屋内へと消えた。身体の大きな異形の者は庭に留まった。


(ぎゅるるる)

異形の者が吠えた。義藤を一瞬で弾き飛ばすほどの力を、異形の者は持っている。その事実がいかほどの恐怖か、赤の仲間たちは悟ったらしい。野江と都南の緊張が高まっていることに、離れていた悠真でも気づいた。同じように佐久も緊張を高めていた。


(ぎゅるるる)

義藤の思わぬ反撃に焦ったのか、異形の者は吠えた。黒い目がはたと春市と千夏を見ていた。黒い色が歪み、春市と千夏の方へ流れていく。異形の者は二人を狙っている。

「春市、千夏!」

悠真は二人に危険を伝えようと叫んだが、既に手遅れだった。

 異形の者は一度爪を振るった。春市と千夏は紅の石を使って身を守ろうとした。同時に、二人を助けるために野江と都南が駆け出した。

 義藤は異形の者と力の衝突を起こし、後方へ弾き飛ばされた。義藤が作り出した赤の盾を異形の者が破ることが出来なかったためだ。二人は違う。

 春市と千夏が作り出した赤の盾を、異形の者の黒い爪容易く破り、爪は二人を捉えた。その爪で春市と千夏が地に倒れた。傷を負った春市、彼を庇った千夏。二人は何もなさずに倒れた。悠真は春市と千夏の力を知っている。彼らが疲労し傷を負っていたとしても、その力は本物だ。

「春市!千夏!」

野江と都南が救援に向かう間も無いほどの短い時間。無力な悠真に何かが出来る時間ではない。

 悠真の視界はゆっくりと巡り、地に倒れた二人が目に迫った。異形の者の力は強大で二人が容易く倒された。それが、どれほどの事態なのか考える必要もない。隠れ術士四人揃えば義藤と対等の力を持つ。二人は義兄弟を率いる存在。その二人が爪の一振りで倒された。それが何を意味するのか考える必要もない。これは、この場にいる紅さえ危険にさらすほどの非常事態。赤の仲間たちは、誰よりもそれを感じている。

「都南!」

野江が都南の名を呼び、二人は同時に駆け出した。野江の放った赤い光が黒い光を呑み込み、凝縮した。都南は朱塗りの刀を抜き、異形の者の首を斬りおとした。これが、火の国を支える陽緋と朱将の力。歴代最強の力を持つ陽緋野江と、術を使えずに朱将まで成り上がった都南。二人は一つの意志で動いているかのよう。息を呑むほどの力。美しい戦い方。赤が煌く。二人の戦いは百戦錬磨の戦い。二人が負けるということは、火の国の沈没を意味する。それゆえ、二人は強い。


――黒の石は一日だけ存在する不死の異形を生み出す。


 火の国を支える陽緋と朱将が刀を抜いた。


――黒の石は一日だけ存在する不死の異形を生み出す。


 その意味を悠真はようやく知った。これが黒の力なのだ。「赤」「黒」「白」が色の中で強い力をもった色だ。黒がなぜ強い力を持っているとされるのか。それは黒が戦闘に特化した色だからだ。


 陽緋野江と朱将都南が刃を抜いたのに異形の者は倒れなかった。野江は再び紅の石を使った。術士の筆頭、陽緋の野江が使う石は火の国で頂点を争うほどの力を持つ石のはずだ。赤い光は異形の者を呑み込み、押さえこんだ。術を使うことが出来ない都南も紅の石が刃に埋め込まれた刀を振り抜いた。

「この石は黒の石の中でも強大な力を持つ石だ。わしの勝ちじゃ!」

登一が狂ったように笑っていた。いや、下村登一は既に狂っていたのかもしれない。他者を蹴落とし、他者の痛みを知らない男は狂っていたのだ。


――異形の者は止まらない。


異形の者は赤い光を跳ね除けた。歴代最強の陽緋野江が作り出した赤い格子を飛び越えた。


 これが、黒の石の力。

 世界が欲する石の力。


 こんな石を持つ国と争うことは無謀だ。官府が黒の石を有する宵の国との争いを考えているのなら、それは火の国を滅ぼす行為。一日経たない限り、異形の者は消えない。一日、押さえつけなければ、異形の者に勝つことは出来ない。黒と赤、どちらが強い色なのか。術士の戦いでなく色同士の戦いのようであった。


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