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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤と義藤(1)

 下村登一が義藤に刃を向けて、人質にとった。それだけで、歴代最強の陽緋野江と朱将都南は動きを封じられるのだ。この赤の消えた屋敷の使用人たちと同じ。自由を奪われ、登一の道具となる。人は誰しも、大切な人を持っているから。

 二人が心から義藤を信頼していることは周知の事実。緊迫した空気が当たりを包んでいた。義藤の代わりは誰もいない。


 悠真はこれからのことが恐ろしくて、紅に目を向けた。紅の強大な力ならば、この状況を打開してくれると信じているのだ。

 悠真の考えどおり、紅は野江と都南が自由を奪われた、人の牢獄を容易く踏み越えた。しかしそれは、悠真が想像するのとは違う方法だ。もちろん、赤の仲間たちでさえ考え付かない方法であった。

「殺すが良い」

紅は煙管で義藤と登一を指した。

「わらわは止めぬ。義藤を殺すが良い」

紅は少しも躊躇わず、断言した。それは、紅とは思えぬ言葉だった。紅は義藤を信頼していたはずだ。紅が義藤を見殺しにするとは思えず、悠真は息を呑んだ。もちろん、野江や都南、佐久たちも目を見開いていた。その中で、最も驚いたのは登一なのかもしれない。

「良いのか、本当だぞ。殺すぞ。義藤を、殺すぞ!」

登一は狂ったように叫んだが、紅は薄く笑みを浮かべていた。野江が悲痛に叫んだ。

「紅!馬鹿なことはお止めなさい!義藤はここで死んで良い人じゃないわ。分かるでしょ。お止めなさい!なぜ、なぜ義藤を見捨てるの!義藤は必要な人よ。これから、あなたを支え、あたくしたちと共に歩み続ける人よ」

野江の言葉は最もだ。悠真は紅が義藤を見捨てるとは想像もしていなかった。紅を守るために戦い続けた義藤を見捨てる紅が信じられなかった。

「野江、黙っておれ。わらわは、隠れ術士のように利用されるつもりはあらぬ。わらわは誰にも屈することは出来ぬ」

野江は叫んだ。

「駄目よ!義藤を死なせることは出来ないわ!」

紅は苦笑し、野江と都南に言った。

「わらわは下村を止めぬ。されど、命ずることは出来る。そこで狸寝入りをする義藤に命ずることが出来る」

紅は煙管で義藤を指した。

「いつまで動かぬつもりじゃ?そのまま殺されるつもりか?何もせずに、殺されるつもりか?」

紅は義藤にそう言ったのだ。

「紅、義藤は……」

悠真は紅に言った。義藤は戦えるような状況ではない。悠真を庇って深い傷を負ったのだ。

すると、紅は悠真に目を向け、ぴしゃりと言った。

「小猿、黙っておれ」

紅は悠真を制すと、再び義藤に言った。

「わらわは救わぬ。わらわと共に戦うのならば、今すぐ目の前におる愚者を捕らえよ。そのまま殺されるつもりか?」

義藤は動かない。紅は続けた。

「愚者を捕らえるのはそちの役目じゃ。今すぐ捕らえよ。わらわの刃なのじゃろ。わが刃が、鞘におさまっまま折られるのを待つだけとは。情けなすぎて笑いが出るわ」

すると、今まで黙していた遠次が目を見開き、紅に問いよった。

「紅、まさかお前……」

遠次は何かに気づいたらしい。何度も義藤と紅を見比べていた。狼狽する遠次を見て、紅は不敵な笑みを浮かべた。遠次の問いに答える様子はない。

「そのまま死ねば、表の世界から義藤が消える。良いのか、それで。それで良いのか?紅が命ずる。紅が許す。今すぐ、そやつを捕らえろ。何も案ずるな。わらわが許したのじゃ。わらわが許可をしたのじゃ。何も案ずるな。そちが案ぜねばならぬのは、そちが生きること。そして、わらわに反する者を捕らえることじゃ」

紅が命じた。

「無茶だ。義藤を救うには白の石が必要だ。きっと、代償を支払わずに助かるだろうけど、今すぐに動けというのは無茶な話だよ」

佐久が紅に言った。

「義藤を殺すつもりか?いくら義藤でも動けるような状態じゃない。お前らしくもない。」

都南も紅と止めようとした。彼らにとって、義藤は信頼できる大切な存在。死なせたくない存在なのだ。

「いくら義藤でも無理です」

野江も紅を止めていた。義藤を知る人たちは、彼を救おうと必死だった。赤く血の染みた着物が、汚れた赤い羽織が、義藤の傷の深さを物語っている。その傷の深さが、赤の仲間たちの足を止め、牢獄へと導くのだ。


あけましておめでとうございます。祝100話目になりました。今年もよろしくお願いいたします。

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