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第五話 聖夜の美少女清掃員①

 冬休みに突入した。

 無事に期末テストを終えて僕としては最高の結果を出せたし、最近はリフューズも大人しい。学園生活というストレス空間から解放され、安穏とした日々にほっと一息だった。結局まだ大宮煌の身体のままだし、トワのことは心配であるけれど。

 テスト順位表に内倉永久の名前が学年一位に書き出されて、それを巡っての一幕(思い出すだけでもおぞましい)のおかげで内倉永久は一躍有名人となった。物腰が柔らかく、女の子たちとも気さくに話すトワは女子の間でよく話題に出るようになった。モテモテなトワを見るのは、複雑な気分だ。

 そして世間は今、クリスマス一色だった。何せ今日はイブなのだ。


「まぁ、僕には縁がない行事ですけどね」


 大宮煌の自室で僕は一人、呟きを漏らした。虚しい。

 毎年イブはどうしていたのだろうか。と思い起こしてみれば、姉がご馳走とケーキを用意してくれて、笑顔でひたすら口撃を繰り出している図ばかりが浮かんだ。幸せな光景……なのだろうか。

 ベッドに仰向けに寝転がり、携帯電話を見てみる。

 着信もメールもなし。ああ、でも。


『冬休みも遊ぼうね煌ちゃん』


 と、終業式で言っていたあさひの天使のように愛らしい顔が浮かんだ。

 ……自分から、誘ってみようか。


「友達なんだし。遊ぼうねって言ってたし」


 僕は小さく言い訳を吐き出しつつ、メール画面を開こうとボタンの上に指を置く。

 その時。


「わっ」


 着信が鳴った。僕は驚きのあまり、携帯電話をぽろりとベッドの上へ落としてしまう。

 もしやあさひから? 僕の気持ちが伝わったのかな? どきどき、と期待に胸を躍らせつつ、携帯を拾い上げた。

 僕の輝いていた眼が……死んだ。それはもう、魚の濁った目のごとく。

 大きくため息を吐いてから、電話に出た。


「はい、もしもし」


 僕は冷たさを含んだ声音で、事務的に告げる。


『よう大宮。突然だけど愛してるから結婚しよう』


 切った。

 しかしまたもかかってくる電話。


「何か用事ですか? 友枝君」


 僕は諦めて電話を取り、電話をかけてきた友枝壱に問いかけてみた。


『用事も何も。今日はクリスマスイブだぜ? 恋人同士がちちくりあう最高の日じゃ――』


 切った。

 しかししつこくかかってくる電話。

 しばらく放置を試みてみたけど、鳴り止む気配がないのでもう一度とってみる。


「だから、何か用事ですか!? 用がないなら電話してこないでください!」


 僕は苛立ちを声に含み、言い放った。


『あ、ごめん。忙しかった?』


 電話口から聞こえてきたのは、友枝の声じゃなかった。

 僕は身を固くして、耳にあてていた携帯電話を見る。聞こえてきたのは元は僕の声だった、トワの声だった。何故トワが。


「いえいえ、全然大丈夫です! なんで友枝君の携帯電話でトワがかけてるんですか?」


『友枝じゃ話にならないから、なんてゆうか、ボクが代わりに話すことにしたんだ』


 トワの口調は珍しく、歯切れが悪かった。


『あの、さ。夕方くらいにボクの家に来れないかな』


「夕方? 予定はないから別に構わないですけど……今日くらい勉強は勘弁してほしいです」


『勉強じゃないんだ。その』


 トワの言葉が止まる。なんだなんだ。こんな様子のトワは初めてだ。何か悪いものでも食べたのだろうか、と心配になった。


「まあなんでもいいですけど。トワの家に行けばいいんですね」


『で、できたらでいいんだけど、可愛い格好をしてきて』


「……は?」


 固まった。トワのしどろもどろっぷりに、おそらく電話の向こうで赤面してるんではなかろうか、という驚きと。可愛い格好? 僕が?


「なんで僕が可愛い格好なんか」


 言いかけて、はっと気付いた。もしや……


『今日の夜、友枝の提案でクリスマスパーティをすることになったんだ。何故かボクの家で。友枝ウザイ。それで、友枝がどうしても大宮さんを誘いたいって言うからさ……』


 成程。トワの様子がおかしい理由が判明した。

 そのクリスマスパーティに、おそらく刹那が来るのだ。

 去年のイブの日も、刹那は内倉家にやってきた。刹那は僕の姉である久遠のことを気に入っている。それがどれくらいの感情かは刹那の態度からは読めないけど、何かと僕の家に来るのはどうやら姉目当てだと、気付くまでは時間がかからなかった。

 僕が大宮煌の身体で刹那とクリスマスイブを過ごすことになるのなら、可愛い格好をしてきてほしい、ということか。

 トワの中身が大宮煌という女の子なのだと、改めて実感した。そして女の子として、可愛いところもきちんと持ち合わせている。


「了解です。とびっきり可愛い格好をしていきます」


 僕は言ってすぐに、通話を切った。ツーツーという機械音が聞こえてくる電話を、しばらく耳にあてていた。

 楽しいクリスマスパーティのお誘いなのに。今日は特別な、聖夜なのに。

 ……なんでこんなにも、胸がもやもやとしてしまうんだろうか。



 気分が沈んだままだったけれど、宣言してしまったのだから可愛い格好に着替えなきゃいけない。

 僕は先ほどからクローゼットを漁り、色々衣服を取り出して姿見の前で合わせる作業を繰り返している。しかし……わからない。

 どんな格好をすればいいんだろうか。部屋中にクローゼットから出した様々な衣服がメチャクチャに散乱している。女の子が言う可愛い格好とはなんなんだ。僕は途方に暮れていた。

 立ち尽くしていた時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 一旦無茶苦茶になった部屋を放置し、僕は玄関へと急ぐ。沙良さんは病院の方にいるので、訪問客には僕が対応しなければいけない。


「はいはーい」


 軽い口調で言って、最近覚えた美少女スマイルを造って玄関を開けた。

 笑顔がピシリと固まった。


「煌ちゃん、こんにちは」


「こここここんにちはっ」


 あさひが輝く笑顔を見せて、立っていた。僕の即席美少女スマイルなんて、彼女の前では霞んで消し飛ぶ。まさに、ピカピカ笑顔だ。


「突然ごめんね。お母さんがこれ、煌ちゃんに持っていってって」


 あさひは笑顔のまま、背中に隠していたものを差し出してきた。包装紙に包まれた小さな箱だ。


「あ、ありがとうございます」


 僕は受け取って、その箱へと目を落とす。なんだろうか。大宮煌へのプレゼントを、僕が開けてもいいのだろうか。戸惑って、あさひの顔を見る。

 今日のあさひは長めの丈のミリタリーデザインのコート、下は白いニットワンピースとブーツで合わせていた。髪の毛先は愛らしく、ふわふわと踊っている。寒い中を歩いてきたのか頬は薄桃色。私服のあさひを前にすると、いつもより更に緊張が増す。やっぱり可愛い。対して今の僕、終わってる。何せ着替える前だったので、ださい学校指定の蛍光色の緑ジャージだ。その上髪の毛ぼっさぼさ。そういえば起きてから顔も洗ってない。


「と、とりあえず上がっていきますか?」


 鼓動が高鳴っていて、目がまわりそうだった。それでもなんとかあさひを招き入れる。玄関で立ち話をしてさようならする間柄ではないんだし。何せ、煌とあさひは親友だ。別に言い訳じゃないよ。


「うん! あ、でも……煌ちゃん出かける用事とかなかった? 大丈夫?」


「全然全然大丈夫です! どうぞどうぞ」


 スリッパを並べてやり、あさひの前に置く。

 僕は箱を小脇に抱え、あさひと共に廊下を歩いて行く。その道中でハタと気付いた。

 しまった――部屋が汚い。

 しかし気付いた時にはもう遅い。客間の前は通り過ぎてきている。自室はもう目前だった。

 自室の前まで来て、僕はあさひを振り返った。


「ちょっと散らかってるんで、別の部屋にしましょうか」


「ううん、大丈夫だよ気にしなくて」


 あさひは容赦なく首を振った。僕は諦めて、自室の扉を開ける。


「わ」


 背後から部屋をのぞきこんだのか、あさひが驚きの声を上げた。やっぱりこういう部分を見られてしまうのは、恥ずかしい。僕は赤面し、とりあえずもらったプレゼントを机の上に置いてから、猛然と衣服を拾い集めはじめる。


「いつもはこんな風じゃないんですけど!」


「煌ちゃん、やっぱりどこかに行くつもりだったんだ?」


 あさひが部屋の中に足を踏み入れつつ、聞いて来た。衣服が山積みになっていると、やはり出かける前に見えるらしい。


「う、うん。夕方からなんですけど、トワの家に呼ばれてて。あ、あさひも一緒にどうですか?」


 黙っているのも変なので、正直に言う。あさひは微笑みつつも衣服を拾う作業を手伝ってくれた。


「うーんどうしようかなぁ家族との約束もあるし。……それにしても、やっぱり煌ちゃんとトワ君って付き合ってるの?」


 作業しながら。何気なく、といった風にあさひが聞いて来た。しかし僕にとっては何気なくな質問ではない。心臓が止まるような思いに、息を飲み込む。


「付き合ってないですよ!?」


 全力で否定した。その全力っぷりが一層怪しさを増してしまった気がして、僕は更に動揺してしまう。


「ちが、違うんです! トワに呼ばれたから行くだけで! 友枝君が強引に決めちゃったみたいなんです! 刹那も来るみたいでなんか可愛い格好しなきゃいけなくて、それも大宮煌が刹那に恋してるからで――」


 僕は目をぐるぐるまわし、真っ赤になって言いながら。

 喚いてる途中で、はっと正気に返った。

 あさひがきょとん、と僕を見ている。しまった。


「煌ちゃん、刹那君のこと、好きなの?」


「……そ、そうみたい、ですね」


 どうやらその事実をあさひは知らなかったらしい。というか、他のクラスメイト達も誰一人気付いていないと日常会話から予測できていた。完全に失言をやらかしてしまったと気付いた時にはもう遅い。僕は否定もできないで、俯き、小さく頷いた。


「そっかぁ」


 ふふふ、とあさひのくすぐったいような笑い声が聞こえて、僕は顔を上げた。

 頬を染めて、とても、とても幸せそうなあさひの笑顔があって。


「じゃあ可愛くならなきゃ、煌ちゃん」


「――うん」


 あまりに幸せそうなあさひの顔に見惚れて、僕はこっくりと深く頷いた。


「じゃあじゃあ、お手伝いしていいかな!?」


「わあ!」


 あさひが迫ってきて、至近距離で目を輝かせた。近すぎて、とてつもなく動揺した。


「それは、それはありがたいですけど、……うん、あの、お願い、します」


「わたしに任せておきなさい!」


 僕の動揺には気付かず、あさひが両手を握ってきてぶんぶんと振った。頼もしいけど、あさひと一緒に可愛い格好を考えることになるとは。さりげなく横を向き、とほほ、と小さく呟いた。


「えーと、じゃあまず、洗顔しよう」


 あさひに握られたままの手を引かれ、僕らは部屋を出た。

 洗面所まで連れられてきてしまった。見られている緊張でぎこちなく洗顔クリームへと手を伸ばす。ぐしゃぐしゃと顔に塗りたくる。


「違う!」


「はいっ」


 あさひが唐突に鋭い声を上げたので、僕は洗い流しかけた手を止めて背筋を伸ばした。


「洗顔クリームはちゃんと泡立ててから顔に伸ばさなきゃ! 見ててね」


 あさひが僕のすぐ横に立ち、洗顔クリームを小さな手の平の上で器用に泡立てていく。なんという驚き。洗顔クリームってこんなに泡立つものだったのか。ぽかん、と見つめていると、あさひがその泡を僕の顔にふわりとのせた。


「ゴシゴシこすっちゃ駄目だよ。そっと、そっと、のばしていくの」


「ふ、ふあ……」


 凄まじく鼓動が高鳴っている。何この状況。


「煌ちゃん座ってくれる?」


 あさひと煌の身体では身長差があるので、うまく洗顔しづらいらしく、あさひが言ってきた。僕は素直に従い、洗面所の隅に置いてあった籐椅子に腰掛けた。

 あさひが柔らかく滑らかに頬やおでこを撫でていく。座って顔を少し上に向けている僕は、そのあまりの気持ちよさにむずむずと身体が火照っていくのを感じた。


「はい、おしまい。ちゃんと洗い流してね」


「ふあぃ」


 僕は、ぽわわ、としたままあさひに連れられて、泡を洗い流す。丁寧に全部洗い流したら、また腕を引かれて椅子に座らされた。


「ちょっと待っててねー」


 あさひがそう言って、何か作業を始めた。

 火照った身体のまま、僕は目を閉じた。なんだか、幸せだ……

 と、顔にふわりとお湯で温めたタオルをのせられた。


「こうやってあっためると、すごく血行がよくなってお肌がツルツルになるんだよ」


 遮られた視界の中、あさひの声だけが届く。顔がほかほかして気持ちいい。なんという夢見心地なんだ。しかしぼんやりと蕩けそうな思考で、僕は今とてつもないチャンスであることに気付く。

 あさひと二人きりの空間だ。今だったら、彼女の本心を色々聞きだせるかもしれない。

 少し卑怯かもしれないけど、直接的なことじゃなかったら、聞いてもいいんじゃないかな。僕は自分の中で良心と葛藤し、喉をごくり、と鳴らした。


「あの、あさひ。あさひは――好きな人、いるんですか?」


「え? やだなぁ煌ちゃん突然!」


 タオルで顔をバシバシ叩かれた。照れ臭そうに頬を染めているあさひは、慌てた様子で僕の顔にクリームを塗りたくってきた。


「わたし、あんまり恋とかそういうのって、わからなくって」


「そ、そうなんですか」


 あさひらしい回答に、僕は内心でホッと胸を撫で下ろした。

 そに間にも、あさひが色々なクリームを僕の顔に丹念に塗りたくってくる。

 ひとしきりあさひの指を堪能した後、完全に骨抜きにされた僕の顔を、あさひがのぞきこんできた。


「煌ちゃんにも読ませてあげたことあるよね? わたし、ああゆうのにすっごく興味があるの」


「ああゆうの?」


 恥ずかしそうにもじもじとしているあさひを見て、僕は目を細める。可愛いなぁ。


「だから、男同士とか、そういうの」


 ……可愛、え?


「いっつも休み時間に書いてるの。男の子同士が恋しちゃう小説とか。えへへ。さ、最近はね、トワ君と刹那君のお話を書いてるんだよ? 書いててすっごくドキドキしちゃうんだぁ」


 僕は彼女のことを知る度に、もっと好きになって……

 全てを受け入れ……


「なんで泣いてるの? 煌ちゃん?」



 洗顔を終えて、ツヤツヤピッカピカになった僕は部屋に戻ってきた。

 そしてあさひは楽しそうに、化粧までしてくれた。


「元々目鼻立ちがしっかりしてるし、すごくキレイな顔だから薄くしといたからね」


 僕は今まで知らなかったけれど、煌の部屋に化粧道具は一通り揃っていた。知っていたとしても、僕には使い方などわからないけれど。煌の部屋の鏡台の前で全てあさひにやってもらった。笑顔であさひが告げたので、僕は鏡で顔を確認。


「わ、わぁ」


 思わずため息が漏れた。

 眉毛はキレイに整えられ、睫毛はくるんとカールして大きい瞳が更にぱっちりと澄んで見える。頬はピンク。唇は艶やかに光っている。


「可愛い」


「うん、すごく可愛いよ! 煌ちゃん」


 僕が鏡に向かって漏らした呟きに、後ろに映っているあさひがにっこりと返す。

 いつの間にかあさひが僕の髪の毛にヘアアイロンをあてていた。


「つ、次は何を?」


「えへへ、折角だから髪の毛アップにしようかなって。それとも、このまま緩く巻いて垂らしても可愛いし」


 あさひは本当に楽しそうだ。可愛くなる大作戦にかなり長い時間を費やしているのだが、全く苦に感じないらしい。女の子、恐るべし。


「どっちがいいかな? 刹那君はどんな女の子が好きなのかなあ」


「……お姉さん系かな」


 僕が言うと、鼻歌を歌いつつあさひが器用に髪をくるくるとヘアアイロンに巻きつけていく。


「垂らした方がお姉さんっぽいよね。煌ちゃん可愛いからすごく楽しい」


「うん、可愛い、ね……」


 思わず鏡の中の煌の顔に見惚れてしまうほど。やはり、大宮煌は美少女だ。そしてあさひの手によって更に今日は輝きを増している。


「はい、出来上がり」


 真っ直ぐだった長い髪の毛が緩く巻かれ、ふわふわと揺れている。すごい。魔法のようだ。

 鏡の中の自分に見入ってる間に、気付けばあさひが服を手にとって物色していた。


「お姉さん系だったら、こんな感じかな」


 胸元が開いたVネックのニットセーターに、段フリルのミニスカートを差し出された。


「みにすかーと……」


 こんなものがあったとは。いや、気付いていたけれど。正直、選んでほしくはなかったかもしれない。しかし、目を輝かせているあさひを前に首を横に振ることなんて、できない。


「それに、はい、これ!」


 ニーハイソックス。この寒い中、腿を露出しろ、と。僕は顔を強張らせつつ、受け取る。期待の眼差しを向けるあさひを前に、どうにでもなれとジャージを脱ぎ捨てた。最近着替えも自分でできるようになった。目は閉じたままだけど。


「煌ちゃん!」


 突然にあさひの鋭い声が飛んできた。僕はビクリ、と身を強張らせる。


「はいぃ!」


「下着に妥協は許しません!」


 ああ、そういえば上下適当な組み合わせだった。毎日下着を選ぶのが恥ずかしくて、上から順番に着用した結果だ。まじまじと自分の下着姿を確認してしまい、恥ずかしくなった。普通に見ちゃったよ。豊満な白い胸にあてがわれた薄い布。やっぱり未だに煌の身体を直視はできない。ドキドキしてしまう。


「勝負下着でいきましょう!」


 あさひが真剣に言い放った後、赤面した。僕は鼻血が出そうになって慌てて首の後ろをたたく。あさひからそういう言葉が出てくるとは。何かとキツイ、この状況。

 ……と、いうわけで。下着までコーディネートされ(色々と耐えられそうになかったのでやはり見ないで着用)服を着た。姿見の前で確認。完璧なる絶対領域の完成に嘆息した。大宮煌、可愛すぎる。そしてそれを一緒に作り上げたあさひに、心から感謝した。

 気付けば時計は四時半を指している。凄まじい戦いの後のように、精魂尽き果てた僕は深くため息を吐き出した。

 しかし本番はここからだ。


「そろそろ行かなきゃ。今日はありがとう、あさひ」


「ううん、すごく楽しかった! 頑張ってね煌ちゃん」


 僕も疲れたけれど、楽しかった。

 やっぱりあさひは僕にとって、胸を温かくしてくれる素晴らしい女の子だ。腐女子な彼女だって、大好きだって胸を張って言える。


「あのね、さっき煌ちゃんに言われて考えてみたの」


「え? 何をですか?」


 あさひが一歩近寄ってきた。そして背伸びして、口に片手をあてる。何か耳打ちをしようとしている仕草だったので、僕も耳を傾けた。


「恋する気持ちってあんまり考えたことなかったけど、わたし、真剣に自分の気持ちに向き合ってみたんだ」


「……う、うん」


「わたしが誰かに恋してるとしたら、それはいっちゃんなのかなぁって」




「だから、やっぱり今日は一緒に行けないや。ごめんね煌ちゃん。煌ちゃんのことを大好きないっちゃんを見てると、たまに辛いの」




「あ、でもわたし、煌ちゃん大好きだよもちろん! 変なこと言っちゃって、ごめんね」


 ……しばらく、思考が停止してしまっていた。





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