Ep.1 登場
病室の窓から見える景色はいつも同じ。
背中に、体に伝わるベットの感触もいつも同じ。
ピッピッ、と響く心電図の音もいつも同じ。
朝から晩までを病室で過ごし、医者や看護師と少しだけ言葉を交わす。
以前はときどき来てくれた両親も、結局顔を出せなくなった。
高校に入学してからは、全く外出許可が出ていないので友人の一人も作らず、そもそも話すようなこともさほどない。
そんな日常が、変わり始めた。
新しい登場人物が現れた。
コン コン
「お邪魔しまーす!」
私の返事を待たず、病室の扉が開かれる。
「ヤッホ」
「・・・・・・だれ」
わずかに戸惑いながらも、一つ返事をする。
「フㇷっ、怖いよ。せっかくの心臓を無駄にするつもり?」
「 ?! 」
こいつは今なんて言った。心臓? 心臓と言ったか?
「まぁ取り敢えず、状況整理しよっか」
「・・・わかった」
◇ ◇ ◇
まず、私の名前は神楽麻依。心臓に病を抱え、いつ容体が急変してもおかしくないため入院生活。
外出禁止で高校にも行けず、心臓移植のドナー待ち。友人はおらず、陰キャを極めている。
「 チッ、・・・・・・陰キャは余計」
私は先の言葉を並べたその女に舌打ちをした。
「金だけはある両親の元、大学病院で暮らしている」
「はぁ、私の話はもういい。貴女は?」
「・・・私は、・・・・・・神楽舞衣」
苗字も名前も私と同じ。漢字はどうか、流石に違うか。
「年齢は貴女と対して変わらないから。・・・・・・それから、──── 」
「 貴女に移植する心臓を持つドナー 」
「・・・・・・・・・・・・ドナー?」
さっきも、そんなことを言っていた。こいつはまだ生きている。生きているのにドナーだと? 言ってることが矛盾している。
「安心して。半年後には私の心臓は貴女が持っているはずだから。そうなる手筈になってる」
「・・・・・・生きてる人間は、ドナーになり得ない」
「大丈夫だって、心臓を待ってなさい」
こいつの言ってることは分からないが、言ってることは分かった。ひとまず今はどうでも良い。
そもそもとしてなぜ、
「なぜ、私なんかのドナーに?」
「自分のことをずいぶん下に言うんだね。なんでって、それが私の生まれた理由だから」
・・・・・・はぁ、ふざけてるのか? こいつはただのポエマーだったか。
「ふざけてなんかないよ」
その女は、まるで見透かしたように言う。
するとそのまま病室のドアの方に行き、担当医に、
「じゃあ、また来ます」
とだけ言って出て行った。
「・・・・・・今の人は、何なんですか?」
私は彼女のことを医者に尋ねる。
「彼女は・・・・・・君のドナーさ」
◇ ◇ ◇
結局なにもわからないまま夕方。
コン コン
病室のドアが叩かれる。
「入るよ、麻依」
「ん、いらっしゃい」
ドアを潜ったのは、私の唯一無二とも言える友人、あるいは親友とも言うべきだろうか、赤澤百恵の姿だった。
私は、昼の謎の女、ドナーを自称する神楽舞衣のことを百恵に伝えた。すると彼女は、
「それ、幽霊なんじゃないw?」
「・・・・・・は?」
馬鹿げたことを言う親友をやや訝しむ。
「きっとその人は幽霊で、死んじゃったあと自分がどうなるかが心残りで、心臓の行方を調べにきたとか」
「なに言ってるの、百恵」
「いやいや、だって絶対そうでしょ!」
「はぁ、幽霊なわけないから。担当医の人もドナーだって言ってる。意味わかんないけど」
「ふぅん。ま、いいや。取り敢えずお大事にね。時間も遅いし帰る。顔が見れてよかったよ、また来るから」
「うん。待ってる」
百恵は病室を出ていった。
本当に何者なんだろうか、神楽舞衣。
ドナーがいて、心臓移植の手術が受けれるのは嬉しい。
ただドナーの素性もわからないまま手術を受けるのは不安がある。
「ホントに、何なんだろ、アイツ」




