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消えた時計

作者: (^^)
掲載日:2025/12/19



古書店「月影堂」の店主、木村正明は、薄暗い地下室の扉を開けると、そこに異常な静けさが広がっているのを感じた。ほんの数日前、店を訪れた常連の佐藤恵子が姿を消してから、木村は不安で夜も眠れない日々が続いていた。恵子は他の客と比べてもどこか特別だった。毎週金曜日、必ず訪れ、同じ本を何度も何度も読み返していた。だが、突然姿を見せなくなったのだ。


それに加え、数ヶ月前に彼女が言っていた言葉が、頭から離れない。「あの時計、まだありますか?」と。


木村は当時、何気なく頷いていたが、その後も不安を覚えていた。地下室には、かつて彼の祖父が集めた古時計が並んでおり、その中に一つだけ、異様に古びた懐中時計があった。それはまるで、他のものとは違う気配を放っているかのようで、木村は手に取るたびに胸騒ぎを感じていた。


恵子はあの時計を見て、目を輝かせながら言った。「この時計は、時間を戻す力を持っているんです。少なくとも、そう言われているんですよ。」


木村は冗談かと思っていたが、彼女の瞳に宿った真剣さに、どこか不安を覚えていた。恵子の話によれば、その時計は、過去に起きた不思議な事件と関わりがあるという。何年も前、町で起きたある失踪事件。数人の人々が突然姿を消し、いずれもその後行方不明のままだった。その事件と、この時計には不可解な繋がりがあると言われていた。


だが、それ以上のことを恵子が語ることはなかった。彼女が何を探していたのか、木村には分からなかった。ただ、毎週、恵子はその時計のことを気にしていた。それが不安を煽った。


数日後、木村はとうとう地下室に足を踏み入れた。薄暗い照明の中、古びた本棚が並ぶ空間の奥に、あの懐中時計が静かに眠っていた。手に取ると、冷たい金属が手のひらに触れる。まるでそれ自体が、生きているかのような感覚に包まれた。


その時、木村はふと気づいた。時計の裏に彫られている文字。「時の扉を開けるもの」。何かを開ける、という言葉に引っかかりを覚えたが、すぐにその意味を考える暇もなく、地下室の空気が一変した。


突然、ドアが激しく閉まり、木村は背後に冷たい風を感じた。何かが起こる予感がした。時計の針がゆっくりと動き始め、時が逆転し始めたかのような感覚に襲われる。


その瞬間、意識が途切れ、気を失った。


目を覚ました木村は、書店の入口に立っていた。外は晴れ渡り、通りの景色も普段と何も変わっていない。しかし、手に握られているのは、あの懐中時計と、恵子の手帳だった。


木村は足元を見た。店の中には静けさが漂っており、まるで時間が止まったかのようだった。その瞬間、彼は一つの恐ろしい事実に気づく。恵子が消えたのは、単なる偶然ではない。その消失には、あの時計が関わっているのだ。


手帳を開くと、恵子の名前が書かれているページが目に入った。しかし、その名前が不自然に消えかけていた。まるでその存在自体が、次第に薄れていくかのように。木村は震える手でページをめくり、そこに書かれた最後の一文を目にした。


「私が消えた後、あなたが目にするのは、私が残した時間だけ。」


その言葉が意味することを、木村はすぐには理解できなかった。しかし、ひとつだけ確信できたことがあった。この時計はただの古い物ではない。それは、過去と未来を繋ぐ扉であり、消失した人々の時間を巻き戻す力を持っていた。そして、恵子はその扉を開け、何かを探していたのだ。


木村は手帳を閉じ、時計の針を再び見つめた。針が進み始めると、目の前の世界が歪み、まるで過去に引き戻されるような感覚に襲われる。彼は思わずその場を離れ、店を出た。


しかし、外に出ても、何も変わらなかった。通りの人々は、あたかも木村の存在を忘れているかのように、すれ違っていった。


そして、木村は気づく。今、彼が見ている世界は、本当に「今」なのか、それとも過去の世界なのか。それとも、どちらも消えてしまったのだろうか?


時計の針が、また一度だけ、ゆっくりと進み始めた。


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