表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔法使いの使い魔  作者: キリン
2章 弟子と使い魔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

13.5話 極北戦線

 ――使い魔が、殺処分を受けたのと同じ頃。


「かかれ! この地の魔族を、根絶やしにしてやれ!」


「おおーッ!!」


 怒号と共に、敵の軍勢と味方の隊列が入り混じり、敵の方は大きく崩れていく。

 統率された進軍。というより、勝ちを確信したような威勢を纏った突撃だった。


 先頭に立つ騎士――ヴァルカン・エッセントは、巨大な剣を片手で振るい、魔族の群れへと躊躇なく踏み込んでいく。

 一振りで骨を断ち、二振りで肉を裂く。魔力を纏った刃が閃くたび、魔族の赤黒い血が宙を舞う。


「逃がすな! 一匹残らずだ!」


 彼の声は命令というより、叱咤に近い声だった。

 その背を追う兵士達は恐怖心を忘れ、魔族の群れに相次いで飛び込んでいく。


 極北。

 太古に魔族によって蹂躙され、今なお人類の定住を拒む極寒の地。

 1年前、遠征軍の手によって制圧された場所でもある。

 この地には、魔王軍残党の征伐を目的として、帝国騎士隊が再び展開していた。


 潜伏しているとされる残党の数は総勢5万体を超える。魔王の死は、あくまで戦争の一転換点に過ぎなかった。

 ここは言わば、今も絶え間なく魔族との戦争が続く、極北戦線である。


「……遅い」


 ヴァルカンは、剣についた血を振り払いながら吐き捨てた。


「魔王軍の残党にしては、抵抗が弱く、脆いな」


 魔族は数が多く、種族によっては体躯も2倍以上ある。だが、統率は取れておらず動きもバラバラだ。それに何より、抵抗力や戦闘力自体もそこまで高くないように思えた。


「ヴァルカン様!」


「――ロイ」


 呼び止められ、ヴァルカンは足を止める。

 駆け寄ってきた副官の騎士――ロイは、鎧に血を浴びた姿で、切らした息を整えていた。


「戦線の奥に、拠点を見つけました!――敵の指揮官も恐らくあの場所に」


 ヴァルカンは周囲を見渡し、それから視線を落とした。

 倒れ伏す魔族の死体。そのどれもが、戦意を失ったまま討ち取られ、散らばっている。


「ロイ」


「はい」


「この戦い、何か変だと思わないか?」

「?」


 ヴァルカンの言葉に、ロイは意味を測りかねたように眉を寄せた。


 魔族には集団戦闘の技術がない。だからこれだけ無秩序で、無謀な突撃を繰り返す。

 一体一体は、並の騎士を遥かに上回る魔力と体力を備えている。

 だからこそ感じる――敵の違和感。


「――拠点を叩く。付いてこい!」

「はっ!」


 ヴァルカンは剣を握り直し、短く命じた。

 

 拠点は、凍った森や川を抜けた先の高台に見えている。踏み固められた地面には、無数の足跡が残っていた。それらは魔族特有の足跡だ。


 しかし、そのどれもが別々の方向に散らばっていて、どこまでも続く。

 

「……」


「ヴァルカン様、せめて本隊の合流を待ってから!」


 声は確かに届いているが、ヴァルカンは歩調を落とさない。

 本隊とも離れ、敵の真っ只中だ。周囲の味方たちも困惑しながらその足に引き続く。


「……静か過ぎる」


 敵の拠点が近いとなれば、気配は濃くなり、周囲にも魔族が現れるはず。


 ――だが、有り得ないほどに静かで、何事も起きないままだ。


「見えました、あれが拠点です!」

「……!」


 雪に覆われた森林の隙間から、砦が見えてくる。既に廃城となったようで、倒壊している様子が見えた。魔族の拠点なのだろう。

 

 それから騎馬隊は真っ直ぐ雪原を抜け、拠点の目の前まで辿り着いた。


 ――しかし、見上げた先に敵の気配は無かった。


「……」


 魔族が築いたか、大昔に人類が建てた古城か。倒壊が激しい一方で、中から魔族の気配は一向に感じられない。

  

「中は、もぬけの殻のようです」


「調べるぞ」

「はっ!」


 馬から降り、段差になっている地面を登る。

 建物は倒壊しているが、辛うじて中に入ることは出来た。瓦礫を押し退けて、入り口を作る。


「(倒壊……いや、これは)」


 瓦礫に手を伸ばし、崩れ方を確かめる。まるでどこからか衝撃が加えられたような割れ方だった。


 雪の重みで崩れたにしては、局所的だ。それに、瘴気の気配や、悪臭が漂っている。


「うっ……先程まで、何者かが居たようですね」 


「ああ。既に捨てられた後のようだ」


 あえて、この建物を崩したのではないか。という疑いが浮かんでくる。


 部下たちが警戒を強める中、ヴァルカンは砦の奥の方に目を向けた。


「ヴァルカン様、階段が」


 ロイが地下への階段を指差す。冷たい空気が、下から這い上がってくる。

 罠の気配を感じつつも、ゆっくりと階段を降りていった。


「行くぞ。慎重に進め」


 それに敵が潜んでいないとは限らない。小さい号令の後、騎士たちは松明も無い中、暗い闇を突き進んだ。  


 鎧が擦れる音が、階段中に響き渡る。 


「う、わ――っ!?」

「……!」

 

 目の前で、兵士が階段から滑り落ち、転倒する。罠の可能性に気付き、一瞬身構えた。

 

「平気か」

「申し訳ございません、ただの転倒です」


 階段は、途中から不自然なほど滑らかになっていた。それで姿勢を崩し、転倒したのだろう。

 騎士の1人が慌てて立ち上がり、周囲を警戒する。――だが、何も起こらない。


 階段を下り切るとと、足裏に伝わる感触が変わった。


「ここが地下……」

 

 視界が僅かに開ける。天井は低く、奥行きのある空間。ヒビ割れた床面に従い、先に進む。


 ヴァルカンは剣の鞘に手を掛け、静かに息を整える。


「……」

「あれは、いったい何でしょうか」


 空間の奥、そこはとある部屋だった。


 何も収納されていない本棚の並んだ――書斎。

 既に焼却された書物の残骸が、あちこちに散らばっていた。


「書斎か。珍しい」


「やはり、既に敵はここを捨てたようですね」 


「そうだな。 ん……?」


 足元に、小さな紙切れがあった。

 拾い上げて中身を確認すると、そこには普通に読み取る事のできる文字で、何かが書き置かれていた。

 

 断片的な記述で、何についての事が書かれているのか見当がつかない。

 ただ、断片になっていない語句が、微かに――


「――ヴァルカン様! 敵襲です!」


「…! どこから」

「敵勢多数! この砦を囲む勢いです!」


 兵士の一報で、紙切れを読んでいる余裕は掻き消された。急いで紙切れを懐にしまい、対処のために方針を考える。


「急ぎましょう。ここは……」

「ああ。退却する」


 即断だった。


 砦が包囲されれば、ここにいる全員が無傷では帰れなくなる。

 ――違和感の正体が分かった今、すぐにでもこの場所から脱出しなければならないと思った。


「……使い魔、だと」

「ヴァルカン様?」

 

 ――違和感の正体。

 息を切らしながら、ヴァルカンはその真実に思考を巡らせた。




「……見て。これが戦いというものだよ」

「……」


 拠点に押し寄せる魔族の群れを、遠くの高台から眺める者達がいた。


 というのも、戦場にいた魔族にはこれまで、敵との正面戦闘を禁じてきた。

 敵の一団が拠点に押し寄せ、内部に突入した時点でその命令を解き、軍勢に包囲させた。

 ――これは意図的な作戦だ。


「人間はこれを兵法って言うらしい。でも、実際効果はあるね」


 フードの影に隠れたその表情は読み取れない。ただ、淡々と事実を話しているような調子だった。


「流石です。これで敵は一網打尽ですね」

「まあ、この程度なら突破されるかもしれない」


 冬の耐寒装備に身を包んだもう1人も、冷え切った空気の中で、一方的な戦況を静かに見つめていた。


「そういえば……次は何を? あの拠点は、一度敵の手に渡ってしまいましたが」


「……ああ。次ね」


 一拍置いて、彼女が言葉を返す。

 

「公国で、面白いものが見られるらしい。かつての……復讐劇ってやつだ」


「復讐?」


「うん。1年前に殺された、魔王の仇討ちだ。互いに“当事者”は生きているからね」


 魔王の死。

 それは、魔族にとっては当然一大事だった。


 事の張本人である、「大魔法使い」はまだ生きている。少なくとも、魔族側の認識では。


「では、ご主人様もその復讐とやらに?」


「付いていく。仮にも私は、魔族の端くれだから。戦ってやる義理は無いけど」


 この者達も、魔族である。

 ただ、魔王の死に対しては特段何とも思っていない。彼女にとっては、魔族の王を名乗る一介の魔物が討ち取られたというだけだった。


「公国の魔法使い達がどんなものか、この目で見てみたい。特に、大魔法使いが創った使い魔には……とても興味がある」


「使い魔……」

「うん。君の――遠い遠い親戚だね」


 1人の表情が険しくなる。その表情を窺うと、もう1人が不敵な笑みを浮かべ、視線を別方向へ向ける。


「……興味が出てきました。その、使い魔に」


「そうと決まれば、早速会いに行こう。――今なら、まだ元気な状態で会えるさ」


 極北では、人類と魔族の戦闘が今も絶え間なく続き、互いに多くの血を流している。


 そんな喧噪を背にして、「魔女」は歩き出した。

 向かう先は――公国。

  

 大魔法使いの創った――心を持ったとされる使い魔に会い、その真価を確かめるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ