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思い出作り


 気づいたら季節は巡り、雨が多く憂鬱な梅雨が明け、本格的な夏へ突入していた。

例年になく今年の夏も暑そうで、太陽の本気を窓ガラス越しにいつも感じている。眩しい。


 高校生にとって大きな夏休み前のイベント、期末テストが終了した。

開放的な気分になるのは当たり前で、テストなので早く帰れるのはもちろん、いつもよりも早く祐希と会えるのが嬉しい。

 テスト期間はどこの高校もだいたい同じなので、私と祐希の高校も同じ日に終了した。

ただ科目数の問題なのか、難易度の問題なのか不明だが終わる時間が少し違うのだ。

テスト期間中は午前中には学校が終わるけれど、あえて時間をずらして、午後のバスに乗ることにしている。


 祐希は有名なサッカーのクラブに入っており、休日は基本1日中練習。

平日も勉強やサッカーの練習であまり会える時間がないので、学校帰りは話ができる貴重な時間なのだ。

貴重な時間を混雑した車内で過ごしたくないし、どうせならゆっくり話したい。


 各自学校でお昼を食べ、祐希の学校の生徒もまばらになってきた13時半。

いつものバスとは違う時間、病院前までは同じではあるが違うバスなので行き先も違う。


 まさに、非日常!

だけどこの感じ、どこか懐かしい気もする。


 プシューー


 そんなことを考えながら浮かれていたら、祐希の高校前に到着したらしい。気づかなかった。

 乗ってきた彼は開口一番、「涼し〜」と手持ちの小型ハンディファンを強にしながら言っている。

よく見たら前髪がうっすら汗で額に張り付いていた。わかる。絶対外暑いよね。この時間帯だし。


「テストお疲れ様!終わったね!」

「ようやく開放。無事に夏休み突入できそうだぜ」

本当に嬉しいのか、カバンを床に置きながら珍しく笑っていた。


 今日のバスの車内は私たちと、親子連れ、おばあちゃんが1人のみ。

親子連れの母親は疲れているのか、子供を抱っこしながら頭がカクカク揺れている。眠そう。

おばあちゃんは前方の席に座っており、少し距離があるが窓の外を見ていた。


「ねぇテスト期間はサッカーの練習ないよね?前言ってたもんね?」

「ないけど、どうした?」

私の突然の問いかけに、少し警戒している。


「遊びに行こう!思い出作りだよ、祐希くん!」

「遊びにって、どこに行く気だよ…行かないっていつも言ってるよな、俺」

 まだ暑いのか、ハンディファンを止めることなく若干呆れたような顔の祐希を見ないフリして続ける。


 「いいじゃん今日くらい!病院はなしで、彼女優先!…ね、お願い」

 今まで付き合ってきてデートなんて数えるほど。それも放課後デートなんて経験したことがないのだ。

たまには私のわがままを聞いてもらってもいいと思うんだよね!


「…いいよ、今日だけな。それで?どこ行きたいの?」

「え、いいの?本当に?!やったー!どこ、どこ行こう!え、どうしよう!」

「行きたいところあるんじゃないのかよ」

 まさかいつものわがままを承諾してくれるとは思わず、大はしゃぎしてしまった。

もちろん、祐希の呆れ顔には気づかず。


 はしゃぎすぎたのだろうか、前に座っていた男の子が不思議そうな顔で私たちを見ていた。

「…なんかすごく見られてるね?」

「そりゃお前な…」

なんて言いながら、祐希はその男の子に向かって、口元に人差し指を当て「しー」の仕草をしてみてせる。

 子供を抱っこしながら眠そうにしていた母親も、子供の視線の先が気になったのか。

一瞬こちらを向いて目が合ったけれど、すぐにまた頭がカクカクと揺れ始めた。

いつの間にか男の子は窓の外の方を向いている。


 「ーー病院前、ーー病院前」


 いつも祐希が降りる病院前を通過し、このバスが向かうそこそこ大きいショッピングモールに行くことにした。

バスを降りず隣にいる祐希を見ると嬉しくなり、つい笑みが溢れる。

「えへへ、今日は長く一緒にいれるの嬉しい!」

「そうだな」

 彼も心なしか、少し嬉しそうだ。



 ショッピングモールに着くと、平日の午後だからなのか人はそんなに多くなかった。

初めて来たわけではないのに、デートで来たのは初めてだからか、なんだかくすぐったい気持ち。


 手を繋いで、モール内をぐるっとウィンドウショッピングをしていたら、ずっと飲みたかったタピオカを発見!

「祐希!タピオカ、タピオカ飲もう!私期間限定のやつがいい、桃!」

 祐希の肩を叩きながらテンション最高潮な私を横目に、「はいはい、待ってな」と買いに行ってくれた。

大人しく休憩スペースのソファに座って待つ。早く飲みたいな。


「お待たせ」

「ありがとう!」

私が飲みたかった桃と、祐希はド定番のミルクティーを買ってきたらしい。

桃の甘い、いい匂いが香り、なぜかちょっぴり切なくなった。なんでだろう。


 タピオカを後にして歩いていると、不意にゲームセンターが目に入った。

手を引こうとすると、私の行動に気づいていたのか、祐希は何も言わずゲームセンターの方に向かっていく。

さすが、私の興味のあることをよく分かってらっしゃる彼氏である。


「あの大きいアザラシのぬいぐるみが欲しい」

「無理に決まってんだろ、馬鹿かお前は」

 たくさんあるクレーンゲームの中で、アザラシと目が合ってしまったが最後。

おねだりしてみたけれど、即答で断れてしまった。まぁ無理そうだけどさぁ。


「え〜私無理だもん!とって、お願い!」

「お前のお願いはさっき聞いただろ…こっちなら取れそうじゃん」


 祐希が指差した方には、手のひらサイズよりは少し大きい可愛い猫のマスコットのぬいぐるみ。

確かにこれも可愛いし、正直可愛いものならなんでもいい。

 取れそうという宣言通り、2回目で本当にゲットした祐希は「言っただろ」とドヤ顔で差し出してくれた。

「天才じゃん!可愛い〜ありがとう!」

「お〜まぁな」


 すごい!なんて言いながらずっと喜んでいると、ふと視線を感じた。

欲しかったアザラシに挑戦していたカップルが不思議そうな顔でこちらを見ている。

あれ、やっぱりこんな簡単に取れるのって実はすごいのかな。

クレーンゲームやらないからわからないけれど、祐希がうまいんだろうなきっと。


 そんな視線に気付いたのか、「行くか」とだけ言って、手を引かれながらゲームセンターを後にした。


 モール内もほぼ見尽くしてしまい、そろそろ帰るかとバスを待つがまだ時刻は16時前。

夏の夕方前なんてまだまだ日は高く、せっかくのデートなのにこのまま帰るなんて勿体無い。

 バスの停車場所を確認していると、行きたいと思っていた場所があることに気づく。


「ねぇもう一つだけ行きたい場所があるんだけど、いい?」

「どこ?」

祐希も帰る気はあまりなかったのか、付き合ってくれそうな雰囲気だ。


「ひまわり畑!」



 帰り道とは逆方面のバスに乗り、着いたのはひまわり畑…と言うほどのものではないが、ひまわりがたくさん咲いている場所だ。

周りには何もなく、住宅街でもないので人の往来自体もそんなに多くない。


「こんな場所あるんだな、俺あんまりこっちの方来ないから知らなかった」

「そうなの!小学生の頃、家族で来たことがあって。いつか祐希と行きたいと思ってたんだ」


 昔はもっとひまわりを大きく感じたのに、あの頃よりも身長が伸びたからか大きいとは思わなかった。

時期的に満開とまではいかないが、そこそこ綺麗に咲いているのも多い。


「桜って大きい花より小さい花の方が好きなのかと思ってた」

「よくわかったね?一番好きなのはかすみ草なんだけど、大きい花ももちろん好きだよ」

 祐希がまさかそんなところにまで気付いてくれるとは思わなくて、ちょっと嬉しい。


「結構咲いてるね、ちょっと時期が早かったかなって心配だったけど」

「そうだな」

「ねぇ知ってる?ひまわりって太陽の方を向いて咲くんだよ」

「あ〜昔聞いたことがある気がする。本当かよって思ったけど、本当なんだな」

 あまり高さの変わらない近くのひまわりに触れながら、祐希はどこか納得している。


「ねぇ祐希」

少し先を歩いている祐希が「ん?」と言いながら振り向く。


「今日はありがとう。念願が叶って本当に嬉しい!最高の思い出!一生忘れないと思う」

 こんなことを言ったら、大袈裟だなって呆れられるかなって思ったが。予想に反して少し震えた声で「俺もだよ」と。

どうしたのかと思い、まじまじと彼の顔を見ようとしたがまた前を向いて歩き始めてしまった。


「私たちもこのひまわりみたいに、ちゃんと前を向いていきたいよね」

 気づいたらそんなことを呟いていた。祐希には聞こえていたかわからない。


 ーー遠くから蝉の声が聞こえる。夕日が綺麗で、ひまわりも風に揺られていた。

 夏特有のなんとも言えない匂いがする。

先を歩く祐希の背中を見ながら、楽しいはずの時間なのにどこか切ない気持ちになる自分の心に蓋をした。


 まだまだ、夏は始まったばかりだ。


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