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いつもの日常

初めての投稿です、よろしくお願いいたします


 窓際の席は暖かい日差しが差し込むおかげで、少し眠たくなってきた。

外では桜が満開に咲いていて、肌寒いはずなのにもう春が来たんだなと感じる。

車窓の外側だけがやけに速く流れていく。バスの中だけ、まるで時間が止まっているみたいに。


「ーー高校前、ーー高校前」

停車を知らせる案内が聞こえてきたと同時にバスが停止する。


プシューー


 ドアが開き、乗車してきた見慣れたその人は少し眠そうな顔をしていて思わず笑ってしまった。

ブレザーもニットも着ておらず、季節感がどこか見当たらない制服を着崩し、シャツの白さが、午後の日差しに淡く滲んでいた。

 セットされていない髪は、日に焼けて色素が少し薄くなっており、先の方だけ寝癖がついている。

さては、昼間もずっと寝ていたのだろうか。寝る子は育つと言うが、仮にもこの高校は進学校だぞ。

なんてことを考えつつも、それは心の中に留めたまま言葉には出さないでおいた。

 「眠そうだね、祐希」

 そんな彼、日高祐希は大きなあくびをしながら、当たり前のように私の隣に座り「ここもあったけえな」なんて言っている。


 いつもの定位置。彼と過ごすいつもの時間。

 これが私の"いつもの日常"ってやつだ。



 時刻は15時45分。いつも通り定刻で彼の高校前のバス停を出発する。

 他に乗客はおらず、貸切状態。


「桜、これ暑くないの?」


 着席して、私ーー春野桜の方を見ながら自分の首元を指差す。

寒いと思ってマフラーをつけていた私に祐希が不思議そうな顔で問いかけてきた。

「暑くないよ、祐希が薄着すぎるんだよ。せめてブレザー着たら?」

「ブレザーなんてこの日差しだと暑くて無理」


 いくら幼少の頃からサッカーをしていて代謝がいいからって、暑がりにも程があるだろう。

…なんてことない会話をしながら気づくと手を握られていた。

その手の温度が、心なしか普段より冷たいように感じた。春なのに、まだ冷たい。

理由は、きっと私のほうが知っている。

 いつもバスに乗っている時間は隣に座り、手を繋ぎながらその日の出来事やくだらないことを話す。

「新しく入ってきた1年が〜」とか「テストの点が良くなくて〜」とか。


 私と祐希は家も近所、で小学校からずっと同じ。所謂幼馴染というやつだ。

 ーーそして、恋人。


 頭の出来が違ったので、高校は別々になってしまったが2年生になった今でもこうしていつも一緒に帰っている。

私がバスに乗る時間だと、祐希の学校はまだ終わっておらず、帰れないはずなのになぜかいるから不思議だ。

 以前それを知った時、びっくりして思わず「愛が大きいね〜」なんて茶化したら「うるせぇ」って言われてしまった。

 でも私は知っている。そんな彼の耳がほんのり赤くなっていたことを。

それがなんだかくすぐったくて、不覚にも本当に愛を感じてしまった。

 その時の私の顔を見た祐希の顔。

普段あまり表情を変えない彼の、少しだけ泣きそうになって困ったように笑っていた顔。

一生忘れられないと思う。

 ーーきっとあの時の私の顔も赤かったのだ。


 「ーー病院前、ーー病院前」


 楽しく話をしていると、祐希がいつも降りるバス停に到着してしまっていた。

時間が過ぎるのはあっという間だな、と思いながら名残惜しく思う。

 バスが止まると、急に外の音が遠くなる。ここだけ、世界が少し違う気がした。

静かな住宅街にあるそこそこ大きい大学病院。病院前ってちょっと空気変わる感じするよね。

 ドアが開く瞬間、もう少しだけ呼び止めたくなった。

でも、声にしてしまったら、この時間が終わってしまう気がしていつも言えずにいる。


「もう着いたのか、今日は空いてたな」

「たまには病院前じゃなくて駅まで一緒に行こうよ〜」

 それでもたまに私は何回か駅まで行こうと誘っているのだが、毎回「今度な」と断られる。

病院前って、いつも少し空気が冷たい。

なんてことを思っていると、彼は「じゃあな〜」とかすかに笑いながら降りていく。


「ケチ〜〜!まさか浮気とかじゃないよね?!」

「お前、俺が浮気なんてすると思うか?ていうかできると思うか?俺だぞ?」

 確かに祐希は体がでかいし無愛想だけど、仲良くなったらよく…ではないけど笑うし話すし優しいし。

何より顔がいい。無表情のくせに、仲良い友人にたまに見せる笑顔や表情の変化に男女問わずやられている。

無意識に人を惚れさせてることをもう少し自覚して欲しい。

 モテるかどうかで言ったらモテるに決まってるでしょ!という私の気持ちを知ってか知らずか、気づいたらバスを降りてこちらを向いていた。


「祐希、また明日ね!」

 慌てて叫んで手を振る私に、手を振りながら背を向け病院の方に歩いてく。

その背中が小さくなるたび、胸の奥が少しだけきゅっとした。

ドアが閉まってバスが動き出すまで祐希の後ろ姿を見る、ここまでが私のいつもの日常。

 もう少しだけいいから、一緒にいたいんだけどなぁ。


 「今度は駅前でタピオカ飲んだり、カラオケ行ったり、放課後デートしたいなぁ」

なんて独り言は外の喧騒に消え、バスは発車し、車内は静寂に包まれていた。

 エンジンの振動が遠のいていく。ふと、隣を見ると桜の花びらが落ちていた。

さっき祐希が降りた時に入り込んだのだろう。祐希の代わりとでも言いたげな花びらを拾い、窓にかざす。

 病院の外にある桜も満開で、お花見もいいなぁなんて思いながらそっとまぶたを閉じた。



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