激戦、ランページ・ベア
朝の光が差し込む野営地にて、クロスたちは昨夜立てた作戦を胸に、静かに森の奥へと足を進めていった。
討伐対象――《ランページ・ベア》。筋骨隆々とした巨大な四足獣は、既に木々の間で唸り声をあげ、こちらを睨みつけていた。
前夜、クロスたちはその特徴を整理し、作戦を立てていた。
馬ほどの体高に、筋骨隆々の肉体と固い毛に覆われた体。重さと速度を兼ね備え、牙と爪、そして突進――どれもが命取りとなる獣。
その相手に、いよいよ対峙する時が来た。
「行くぞ……!」
先制はジーク。
「熱よ、弾けろ――ファイアショット!」
ジークの手から火球が放たれ、ランページ・ベアの左肩を焼いた。だが、その分厚い毛と皮膚にはほとんど通じず、焦げ臭い煙が立ち上るのみ。
効果の薄さにランページ・ベアは怒りの咆哮を上げ、真っ直ぐジークへ突進してきた。
「効いてねぇ……!」
ジークが呟くより早く、ランページ・ベアが怒声のような咆哮を上げ、突進してきた。
「ジーク、下がれ!」
テオが盾を構えて前に出る。狙いは軸をずらし、大木に誘導しての転倒するはずだった。だが――
「ぐっ……ああああっ!」
巨体の勢いは想像以上だった。テオを盾ごと弾き飛ばし、数メル後方に吹っ飛ばす。
ジークは辛くも横へ飛び避けて無事だったが、地を割るようなその突進に体を強張らせる。
「テオッ!」
クロスは思わず叫びながら、ランページ・ベアの前に立つ。
その巨体が放つ殺気に喉が渇く。足が一瞬すくみそうになる……
だが、それを押し殺すように剣を構えた。
(落ち着け……自分は、ここまで訓練してきた。思考を速く。動作を正確に。何度も何度も、繰り返したじゃないか……)
息を吸い、吐く。
(ここで逃げたら、何のためにあの戦いを生き延びた――)
ランページ・ベアが牙を剥き、噛みついてくる。クロスは剣で受け、次いで爪の一閃を半身で交わす。
その動きは確かに、以前の自分より研ぎ澄まされていた。けれど――
(まだ完成形じゃない……だからこそ、今は試す時だ)
剣の間合いで攻め込みつつ、クロスは一手一手に集中する。だが、徐々に押され、距離を詰められていく。
その時、背後から叫び声。
「我が前に、揺るがぬ壁を――《シールド》!」
セラが障壁魔法を纏い、後方からメイスを持って突撃。だがランページ・ベアは咄嗟に振り向き、爪を振り上げる。
「セラ、下がっ――!」
クロスの声も間に合わず、セラは盾ごと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
魔法障壁があったにも関わらず、その威力は桁違いだった。
「……っ、左肩が……外れた……!」
セラは歯を食いしばりながら、即座に詠唱する。
「癒えよ、痛みの源よ――《ライトヒール》!」
一方、ジークも再度火球を放ち、ランページ・ベアの注意を引こうとするが、相手はその威力なら気にしないのか無視される。
ランページ・ベアは再び、クロスたちに向けて牙を向け続ける。
「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」
クロスの氷弾が命中するも、凍結は表面止まり。怒りのままにランページ・ベアは再び突進する。
だが、そこに立ち塞がるテオ。
「今度こそ、俺が!」
再び構えた盾。その横で、セラが再度魔法を唱える。
「我が前に、揺るがぬ壁を――《シールド》!」
シールドによって勢いを殺し、軸をずらした盾でランページ・ベアを横に誘導――
次の瞬間、大木に頭から突撃して、巨体がよろめく!
「……今だっ!」
クロスが駆け寄ろうとしたその時、再び両腕を振り回して迎撃するランページ・ベア。あれだけの勢いで大木に頭を打ったにもかかわらず、簡単には倒れなかった。
「セラ、テオ、後ろ足を狙ってくれ! ジーク、顔を!」
クロスたちの攻撃が一斉に放たれる中、クロスは深く息を吸い、《アイススパイク》の詠唱に入る。
「凍てつく氷よ、我が敵を穿て――《アイススパイク》」
放たれた4本の氷槍が、後ろ脚に命中。筋肉の塊に対し、貫通はしたが致命傷には至らない。それでも、動きが確実に鈍る。
(これが、今の俺の限界か……)
まだ足りない。けれど、あと一歩だとクロスは感じていた。
再びテオに振るわれるランページ・ベアの鋭い爪。テオが盾で受けるが、盾の上部が砕け、テオの身体が吹き飛ばされる。
「テオッ!」
その隙に、クロスは脇腹へ剣を突き立てた――
だが、肉が締めつけ、剣が抜けない。
(ここに立ち止まってたらまずい……)
剣を手放し素早く後退しながら、クロスは判断する。
「セラ、ジーク、攻撃して! テオは回復を!」
そして自分は――走りながら、《アイスタッチ》を詠唱。
「冷たき精よ、我が手に宿り、触れるものを凍てつかせよ――《アイスタッチ》!」
ランページ・ベアが頭部や後脚への攻撃を受けて、クロスから視線を逸らした、その一瞬。
「……今だ!」
クロスは胴に突き刺した自分の剣に飛びつき、《アイスタッチ》を発動――!
ズゥン、と低い音を立てて、ランページ・ベアの体が内部から凍りつく。
その巨体が痙攣し、やがて――崩れ落ちた。
「……やった、のか……?」
息を切らしながら、クロスが剣を引き抜き、振り返る。仲間たちも、泥と汗にまみれながら、そこに立っていた。
勝ったのだ。
今の彼らの全力を尽くして、ようやく手にした勝利だった。




