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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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影、潜む森

翌朝、クロスたち4人は早朝からコルニ村を出発し、村の北側に広がる森林地帯へと足を踏み入れていた。


「ゴブリンの痕跡って言われてもなぁ……」


ジークがぼやくように言った。


「わたしたちは狩人ではありませんからね。足跡や痕跡を頼りに追えるとは思えませんから、地道に行くしかありませんよね」


セラは冷静に現実を受け止めながらも、視線を森の奥へと向けている。


「でも、依頼は討伐だ。なら探し回るしかないさ」


クロスが決意を込めた声で言うと、テオが肩をすくめながら頷いた。


「ま、歩き回ればいつかは当たるだろ。何か別の魔物に先に当たらなきゃいいけどな」


そんな言葉が出た矢先だった。


「……あれ」


クロスが茂みの向こうを指差す。そこにいたのは、薄緑色の鱗を持つトカゲ――モスリザード。体長は2メルほどで、鋭い爪と舌で毒を塗布してくる、森では厄介な魔物だ。


「村人が森に入ったときに出くわしたら、確実にやられるな」


そう言ってクロスが剣を抜く。


「倒しましょう。ここで逃がしたら、誰かが被害に遭うかもしれません」


セラが静かに言い、戦闘態勢に入る。


テオが盾を前に出して先行し、クロスが左から回り込む。ジークは距離を取って詠唱に入り、セラは後衛支援を整える。


モスリザードは素早く前脚で地を蹴り、ジークの方へ舌を伸ばしてきた。


「くっ、あぶねぇ!」


ジークがギリギリで回避し、その隙を突いてクロスが脇腹を斬りつける。だが硬い鱗に刃が弾かれ、ダメージは浅い。


「ジーク!」


クロスの声にジークが呪文を叫ぶ。


「熱よ、弾けろ――《ファイアショット》!」


炎の矢がモスリザードの背中に命中し、鱗が焼け焦げる。怒った魔物が反転しテオに突進したが、テオはうまく正面を外して受け流し、セラの《ライトシールド》が更に攻撃の軌道を逸らす。


その瞬間を逃さず、クロスの剣が喉元を貫き、モスリザードは地に伏した。


「よし、無事討伐完了」


クロスが一息つく。


「最初にしては上出来だな」


テオも納得のように頷く。




だが、肝心のゴブリンは見つからない。昼過ぎになっても森の奥には気配がなかった。


「戻るか。一度村の方へ向かおう」


クロスの提案に、皆が頷いた。


森を抜けて道を歩き始めたとき、不意にジークが声を上げた。


「いた、ゴブリン! あっちに五体!」


「あれは……間違いないわ。先手を取りましょう」


セラが言う。


「魔法で先制しましょう。クロスさんお願いします。ジークさんも準備してください」


クロスが詠唱に入り、ジークも続く。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


「熱よ、弾けろ――《ファイアショット》!」


クロスの氷弾が一体のゴブリンの胸に直撃し、氷の棘が体を貫いた。一撃で倒れる。


ジークの火球も命中したが、威力はやや不足し、焼け焦げたゴブリンが苦悶しながら走ってくる。それに対し、テオがすばやくハンドアックスを振るい、とどめを刺した。


「残り三体、行くぞ!」


クロスとテオが走り出す。


クロスは素早く懐に飛び込み、一体を剣の連撃で押し切る。セラは盾で攻撃を逸らしつつ、重く振るったメイスで頭部を砕いた。


最後の一体も、テオが無駄なく脚を狙い、転倒させてから仕留めた。


戦闘は、全員がほぼ無傷で終えた。



「……俺の火じゃ、倒しきれなかったな」


ジークが内心で落ち込む。クロスの魔法が確実に仕留めたことが胸に刺さっていた。




その後も警戒しながら森を移動する一行。夕方近く、木立の影で再びゴブリンの姿を発見した。


今度は3体。先程の戦闘の経験から、それぞれが役割を理解し、素早く行動に移る。セラの指示でジークは位置取りを修正し、炎の魔法で一体を焼き、今度はクロスがトドメを刺す形になった。


全体を通して危なげなく討伐に成功し、夕方、再び村へと戻る。


村長に戦果を報告するも、新たな情報が入っていた。


「他の畑にもゴブリンとホーンボアが現れたようじゃ。どうやら、まだ他にもいるようじゃな」


「分かりました。明日も引き続き捜索に出ます」


セラが丁寧に応じた。


帰り道、クロスが肩を回しながら言った。


「想像よりも討伐って大変だな。1日で終わるもんじゃないんだ」


「そういうものよ。とくに今のわたしたちのような9級だと、力不足というより情報不足や確認不足が問題になるの。ちゃんと倒した数を報告しないと未達成扱いになることもあるわ。それが続くと、昇給にも響くのよ」


「……気をつけるよ。しっかりやらなきゃな」


クロスは仲間の顔を順に見て、うなずいた。


訓練を重ね、力をつけてきた今だからこそ、見えてくる壁がある。けれど、それを越えた先にしか見えないものもある。


明日も、確かな一歩を踏み出すために。

クロスたちは再び森へと向かう決意を固めた。


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