反省と覚悟
休養日の翌朝、クロスたちは再びギルドへと足を運んだ。
先日受けた緊急依頼の報酬と、その後の対応についての話があるとのことだった。
ギルドに着くと、見知った顔があった。ボルド、ナシュ、リリィの三人だ。彼らもまた、依頼の帰還報告に来ていたらしい。
「戻ったんだな、ボルド」
「テオもマシな顔色になったな」
笑顔で声を掛け合う中、受付にいたユニスが歩み寄ってきた。
「セラさんたちと、ボルドさんたち。サブマスターが話があるそうです。執務室へどうぞ」
通されたのは、サブマスター・ミレーナの部屋だった。
「まずはお疲れ。ボルドたちも当事者だと言えなくはないので、情報を共有しておこう。ただし、この事は4級の連中以外にはまだ話していないからそのつもりで」
そう前置きをして、ボルド達にミレーナは魔法を使う個体と黒装束の話をした。
「……今回はギルドとしても完全に予測外だった。異常の原因が魔法を使う個体、そして黒装束の存在……。本当に想定外だった」
彼女は一度言葉を切って、テオとボルドに視線を移す。
「ボルド、村の様子は?」
「クロスたちが村に戻った日の午後、村人を連れて湿地に入った。数は多かったが、動きは通常通り。襲ってくる個体もいなかった。ほぼ鎮静化したと判断していいと思う」
ミレーナはゆっくりとうなずき、表情を少しだけ緩めた。
「それなら今回の件は一区切りだ。通常の間引き依頼として対応する様に指示しておこう。……ただ、異常な事態だったことには違いない。だから今回は、2組とも報酬を予定より増額することにした」
「「「おおっ!」」」
一気に空気が和らぎ、リリィとナシュが小さくガッツポーズを取り、ジークも思わず笑顔を浮かべた。
「今後については、いつも通り活動を続けてくれ。……それと、黒装束の件はくれぐれもまだ他言無用だ」
そう言って、ミレーナは一同を解散させた。
◆ ◆ ◆
ボルドたちとギルドの入り口で別れた後、セラがクロスたちに言った。
「今後の方針を話し合っておきたいわね。……訓練所に行かない?」
「いいですね」とクロスも頷き、全員でギルド訓練所へ向かった。
ギルドの裏手にある訓練所――。
簡素な木柵に囲まれたその場で、セラが4人に向き直る。
「……これからの活動方針について話そうも思うの。今後の予定も立てておきたいですし」
「おお、まじめだなセラ」
ジークが軽く冗談を飛ばすが、空気はどこか引き締まっている。
「俺……正直、今回の戦いで痛感したよ」
と、テオが静かに切り出す。
「盾を構えても、敵の力に押されて簡単に吹き飛ばされた。受け止めるだけじゃダメだって言われてたのにさ。だから、ちゃんと攻撃を逸らして受け流す技術と、何より……防御から攻撃への繋がりが足りてなかった」
「うん……俺も」
ジークが俯きながら話し出す。
「魔法を撃った後、動けるようにしなきゃいけないって教官から散々言われてたのに……実戦になったら、それがまだできなかった。それに、魔法を放つ時、俺は完全に止まってしまう。それが隙になって、敵に狙われる。だからこれからは走りながら魔法を詠唱する訓練と、持久力をつけるための走り込みをやりたい」
セラが小さくうなずき、静かに言った。
「私も……あのとき、ただの治療魔法だけでは足りなかった。障壁を出しても、すぐ壊されて……。これからは障壁魔法と治療魔法の精度と強度を高める。そして……盾と武器を使って、自分自身を守る術も覚えたい。後衛であっても、倒れたら終わりだから」
三人の真剣な言葉に、クロスもゆっくりと口を開く。
「……俺だって、フロレアさんが来なければ死んでた。実力も経験も、全然足りない。だから、もっと強くなりたい。今度こそ、絶対に負けないために」
その言葉に、3人は一瞬黙った後――同時に苦笑した。
「おいおい、黒装束と一番やり合えたお前が、それ以上向上心出されたら、俺たちもっと頑張らないとヤバいって」
「ほんとだよ……すぐ差をつけられそうで怖いんだけど」
「でも、頼もしいよ。クロス」
冗談交じりの言葉の中に、確かな信頼があった。
「……それでは、スケジュールも改めて確認しましょう」
セラが紙に書き出しながら言う。
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【今後のスケジュール】
•1日目:1日仕事(依頼)
•2日目:半日仕事+武器メンテナンス+訓練
•3日目:1日仕事
•4日目:防具・道具の整備提出日+訓練日
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「無理しすぎず、でも少しずつ前に進む。……そんな日々にしましょう」
クロス、ジーク、テオは目を合わせてから、口を揃えた。
「賛成」
「文句ないよ」
「しっかり鍛え直さないとな」
新たな覚悟を胸に、4人は静かに立ち上がった。
これからの日々が、さらなる成長の礎になることを、それぞれが信じて。




