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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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刃交わるその先に

絶体絶命――その言葉こそ、今の状況を端的に示していた。


クロスは左目を閉じ、視界を右目だけに絞りながら黒装束を睨み据えていた。だが、その相手はまるで霧のように姿を掻き消し――否、クロスの視界から瞬時に消えたのだ。


(来る……!)


予感が告げた。左側、死角――


「ッ!」


クロスは体を反転させながら剣を構え、迫る斬撃をギリギリで受け止めた。刃と刃がぶつかり、耳鳴りが鳴り響く。


「――!」


読んでいた。クロスは剣を構え、寸前でその斬撃を受け止める。激しい火花が散る。


「……ははっ、これを防ぐとはな。やるじゃねぇか」


そう言って黒装束は愉しげに笑った。口元には余裕があったが、その瞳には明確な殺意が浮かんでいた。


次の瞬間、黒装束の拳がクロスの顔面を捉える。


「けどなぁ……いい加減、しつこいんだよ!」


頬骨に衝撃が走り、クロスは数歩後退した。


「クロスッ!」


セラが叫ぶ。

ジークは震える手で魔力を練った。


「熱よ、弾けろ――《ファイアショット》!」


火球が空を裂き、黒装束へと飛ぶ――が、黒装束は軽く身をひねってそれを躱した。


「甘ぇよ、ガキが……」


返す刀のように、黒装束は短刀を投げた。

風を切る音と共に、ジークの左腕に突き刺さる。


「ぐあっ……!」


その場に崩れ落ちるジーク。地に伏せながら、必死に腕を押さえた。


「雑魚は地べたに這いつくばってろっての」


罵声が響く。


その黒装束の姿に、クロスの怒りが爆発する。


「おおおおおおッ!!」


雄叫びとともに踏み込むクロス。黒装束は振り返り、小馬鹿にしたように言った。


「なぁにができるってんだよ? その状態でよ――」


その瞬間、クロスの靴が泥を蹴り上げ、黒装束の顔面を汚した。


「っの野郎……!!」


顔を拭い、怒りに満ちた目で睨みつけてくる黒装束。クロスはすかさず詠唱を開始する。


「凍てつく氷よ、我が敵を穿て――《アイススパイク》!」


四本の氷の槍が、黒装束の足元から一斉に伸びる。だが、黒装束は瞬時に跳躍――避けたかと思ったその瞬間、一本が右足に突き刺さる。


「ぐっ……!」


地に落ちる黒装束を見たクロスは、剣を握り直し、追撃に転じようと踏み出した――だが、身体が傾く。

連戦による魔力の消耗と疲労で、バランスを崩してしまったのだ。


その様子を見た黒装束は、自分の右足に突き刺さったアイススパイクを引き抜きながら笑いながら言った。


「こっちは片足が潰れたが、そっちはもう立つのもやっとか……面白ぇ、次で決めようぜ」


クロスは歯を食いしばり、気力を振り絞って剣を構え直す。


じり……と、互いの間合いが詰まる。


「――セラ!」


クロスの叫びと同時に、セラが反応した。


「我が前に、揺るがぬ壁を――《シールド》!」


障壁がクロスの目前に展開される。その直後、黒装束の鋭い斬撃がぶつかる。火花と共に衝撃が走る。


クロスはシールドが相手の斬撃を受ける一瞬の隙を利用し、逆袈裟に斬り上げる構えをとる――しかし。


「治療薬、っと」


黒装束は小瓶を取り出し、中身を右足にかけた。瞬く間に回復の光が広がり、再び彼の脚が動きを取り戻す。


「なっ……」


次の瞬間――クロスの背後に回り込む黒装束。


(まずい……!)


剣が振り下ろされる寸前、森の奥から矢が放たれた。鋭い音を立て、黒装束へ一直線に飛来する。


「っち……!」


黒装束は咄嗟に避けようとするが、その矢は空中で軌道を変え、黒装束の左肩を撃ち抜いた。


「がはっ……!」


勢いのまま、黒装束の身体は地面を転がる。


森の奥から現れたのは、ひとりの女性冒険者だった。ラグスティア所属、4級冒険者の フロレア。弓と風魔法の使い手である。


「ったく……ルーキーの仕事なのに緊急だからって無理やり回されて、断ろうかと思ったけどさ。来て正解だったわね」


笑みを浮かべているが、その目はまったく笑っていなかった。


フロレアはクロスの側に視線を向け、黒装束を顎で示した。


「こいつ、一体何者?」


「……エルネ村と多分、アミナ村の魔物騒動に関係してる」


クロスの答えに、フロレアは口の端を吊り上げ、笑みを一層深めた。。


「じゃあ、ラグスティアにご招待しないとねぇ……」


その声に含まれる殺気は、黒装束すら一瞬たじろぐほどだった。


だが――黒装束はポーチから黒い瓶を取り出し、それをフロッグシェードの死骸に投げつけた。


「やめろ――!」


クロスの声も虚しく、瓶が割れ、黒い煙が広がる。


フロッグシェードの死骸は音を立てて崩れ、泥のように溶けていく。


煙が晴れた時、そこには黒装束の姿は影も形もなかった。


「……逃げたか」


フロレアは眉をひそめ、肩の弓を背負い直した。


クロスは剣を地に突き立て、荒い息をつきながら立ち尽くしていた。


湿地の森に、ようやく静寂が戻りつつあった。

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