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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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静かなる変化

ダリオとの一件から数日が経った。


クロスたちの周囲には、確実に変化の風が吹いていた。ギルドでは多くの冒険者がクロスに目を向け、時には羨望や警戒の色を交えて囁く声が聞こえる。特に7級冒険者からの勧誘が増え、クロス自身も少々面倒だと感じていた。


「……なんか、見られてるな」


ジークがぼそりと呟く。


「俺たちじゃない。クロスだけだ」


テオが肩をすくめる。


「正直、気持ち悪いですね……視線が重い」


セラが苦笑しながら続けた。


クロスは軽く頭を掻きながら答える。


「まあ、そのうち静かになるさ。そんなことより、俺たちがやるべきことは変わらないだろ。今日も仕事に行くぞ」


4人はギルドで受け取った依頼に目を通す。


内容は、北東の丘陵地帯で発見されたヴァインリザードの間引き任務。植物のような鱗を持つ中型の爬虫類型魔物で、集団で農地に出没することがある。毒性はないが、再生力が高く、放っておけば被害が拡大する魔物だった。



現地に到着したクロスたちは、2体のヴァインリザードを確認し、クロスとジーク、テオとセラの2組に分かれて対応する。


「ジーク、クロスと組んで奥の個体をお願い。私とテオで手前のを抑えるわ」


セラの的確な指示で、パーティはすぐに二手に分かれた。


――ジークとクロス組。


「ジーク、まずは焙って足を止めてくれ。いけるか?」


「う、うん! やってみる!」


ジークは深呼吸をしてから魔力を込めた。



「熱よ、弾けろ――《ファイアショット》!」


火の魔法が魔物の体を焦がし、ヴァインリザードが痛みで跳ね上がる。その瞬間、クロスが動いた。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


氷の弾丸が空中の魔物に直撃し、動きが一瞬鈍る。その隙を逃さず、クロスが距離を詰めて斬撃を叩き込んだ。


2人の見事な連携だった。


「……やるじゃん、ジーク」


「へ、へへ……走って魔法撃くの、慣れてきたかも……!」


――セラとテオ組。


「テオ、前に出ないで。回り込むわ」


「わ、わかった!」


セラは地形を利用し、魔物の背後に回りこもうとする。テオは正面から盾を構えた。だが、正面からの受けを避けるようにテオは一歩横へ。体を斜めに構えて跳躍を逸らす。


「よしっ……来いっ!」


ヴァインリザードの突進にテオの盾が角度を変えて魔物の起動をずらした。


「我が前に、揺るがぬ壁を──シールド!」


初級の障壁魔法が生成され、跳ね返った魔物がそのままぶつかると衝撃で体勢を崩す。そこにセラがメイスを振る。


「ふぅ……うまくいったわね」


「お、おれ……ちゃんと護れてたかな……」


「十分よ、テオ。あなたの盾が無ければ、私が危なかったわ」


戦闘後に軽口を交わす4人の間には、確かな連帯が育っていた。



ギルドで報告を済ませた後、4人はギルドの食堂で夕食を共に取る。席に着くと、セラが意を決したように口を開いた。


「ねえ、やっぱり……クロスがリーダーの方がいいんじゃないかな」


クロスは箸を止めた。


「俺は向いてない。判断を誤ることもあるし、実はそこまで冷静じゃない」


「でも、強さは……」


ジークが言いかけたところで、クロスが静かに話し始めた。


「アミナ村のこと、話してなかったよな」


3人が息をのむ。


「俺、ベルダ村にいた時にあの村の防衛戦に参加してた。50体以上のゴブリンと、ブラッドゴブリン、ゴブリンシャーマン。死ぬ覚悟で戦ったんだ」


言葉の重さにテーブルが静まる。


「その時、ブラッドゴブリンの隙を作るために仕掛けて吹っ飛ばされたんだ。それでも……俺はなんとか生き延びた。だから、ダリオみたいな奴に勝ったからって、別に驚くようなことでもないんだ。あいつがどうとかじゃない。命懸けの経験をしたかどうか、それだけの違いだよ」


クロスは3人を順に見た。


「リーダーに必要なのは、力だけじゃない。状況を把握して、正しく判断できる冷静さ。セラはそれができる。俺はそう思ってる」


セラは少し頬を赤らめながら、静かに頷いた。



同じ頃――ギルドの執務室。


ギルドマスターのヴォルグとサブマスターのミレーヌが、教官たち――ハルド、カイロス、リヴェルを呼び出していた。


「さて……そろそろ本題に入ろうか。クロスと、その仲間たちの現状について教えてくれ」


ヴォルグの低い声に、最初にハルドが応じた。


「テオは以前より安定してます。バルスの戦闘スタイルを理想に掲げてましたが、今は身の丈に合った戦い方を模索中です。反応も悪くない」


「ジークは?」ミレーヌが尋ねる。


カイロスが口を開いた。


「まだ体力作りが先行してますが、無駄撃ちは減ってきました。何より、仲間を意識して動こうとするようになった。魔法使いとしては素直で良い素材です」


「セラは神官戦士としても才能がある。支援も障壁も、自分の間合いをきちんと把握している。それが自然にできているのは珍しい」


リヴェルの口調は穏やかだが、評価は高かった。


ヴォルグが腕を組んで唸る。


「……クロスの実力は、もう町中に知られた。となれば、下手に低ランクの仕事を続けていると、余計な摩擦を生む」


「そうね。嫉妬や反感もあるでしょうし」


「問題は、目立ちすぎてしまったことだな」


「ええ。中には面白くないと思う連中も出てくるでしょうし」


「だから、これからは周辺の村――エルネ、コルニあたりの依頼を多めに回しましょう。町の中よりも、彼らには外の空気を吸わせたほうがいい」


ミレーヌの提案に、教官たちも異論を挟まなかった。


「彼らの歩む先に、今より遥かに険しいものが待っているだろう。しかし、それを乗り越える力はあるはずだ」


ヴォルグの言葉に、部屋の空気が引き締まった。


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