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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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進む歩幅

アシュレイとのレシピ契約から二日。今日も朝、ラグスティアのギルドには四人の姿が揃っていた。


「さて、本日の仕事はどうしましょうか?」


いつものように静かな声でセラが問いかけると、クロスが少し手を上げて応じた。


「一つ、提案があるんだけど――グラスファングの間引き依頼、受けてみない?」


「……また?」


ジークがやや怪訝な顔だったが、何かを思いついた様に揶揄いながら尋ねた。


「そんなに、グラスファングの肉って美味しかったのかよ?」


「ああ。本当に、美味しかった」


クロスが真剣な表情で即答した。


「……まじかよ」


ジークは冗談のつもりだったのだが、絶句し目を見開いたまま口を閉じるタイミングを失った。


「そんなに断言するとは……ちょっと気になるな」


テオが半ば笑いながら言い、セラも興味深そうに眉を上げる。


「クロスさんがそこまで言うのなら、ただの冗談ではなさそうですね。……料理にされた、ということですか?」


「うん。レシピは、ゴールドロット商会に売ったんだ。で、月影の宿の人たちから、『肉の確保は君の仕事』って押し付けられちゃってさ」


「押し付け……いや、まぁ、それだけ期待されてるということかしら」


セラが小さく微笑む。


「食べてみたいし……それで、間引き依頼ってこと?」


「そう。今日の依頼にしたいんだけど、どうかな? 代わりに、明日の夕飯にその料理を振る舞うよ。宿の女将さんたちも文句は言わないと思う」


「それなら……やってみる価値はありますね」


「わかった、乗った」


セラとテオが了承し、ジークも腕を組みながら渋々うなずいた。


「まあ、そこまで言うなら、食ってみたいしな。仕方ねぇ」



グラスファングは繁殖力が高く、近郊の草原に出没する頻度も高いため、間引き依頼は常にギルドに掲示されている。依頼書を受け取り、街道沿いの森へと向かう。


パーティの隊列はこれまでと同様。セラが後衛で指示役、前衛にテオとクロス、ジークが支援という構成だ。


「今回も隊列は同じで。けど、訓練でやったこと、できるだけ試してみよう。実戦で使えなきゃ意味がないし」


「ええ、問題ありません。私も今日はもう少し指示を細かく出してみます」


セラが穏やかな口調で応じ、テオとジークも気合いを入れる。


やがて、背の高い草の間から現れたのはグラスファングが4体。


「敵確認、四体。ジークさん、後方から魔法支援。テオさん、正面は避けて側面から回って。クロスさんは左から切り込んでください」


セラが短く指示を飛ばす。


「了解!」


クロスは駆け出しながら、魔力を込めて詠唱する。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


氷弾が鋭く放たれ、一体のグラスファングの眉間を撃ち抜く。甲高い悲鳴とともに倒れる個体。クロスはすぐに剣を構え、二体目へと向かう。


一方テオは、正面から受けないよう意識して動くものの、つい足が止まり、いつもの立ち回りに戻ってしまう。


「ぐっ……結局また正面かよ……!」


ジークは後方から位置取りを変えようと走るが、セラの立ち位置を考慮せずに走るため、無駄な移動が多くなる。


「ジークさん、射線、私の正面を横切らないで!」


「わ、わかってるって!」


それでもセラは冷静にジークを支援し、チャンスを待つ。


クロスは剣で二体目を仕留め、テオもグラスファングの攻撃を受け流す中、偶然タイミングよく盾で体勢を崩させ、ハンドアックスで一撃を加える。


残る一体はセラの攻撃で動きを鈍らせ、ジークの攻撃のタイミングを作り出す。


「今です、ジークさん!」


「熱よ、弾けろ――《ファイアショット》」


火球が一直線にグラスファングの胸元に突き刺さり、爆ぜた炎が毛皮を焦がしながら倒れ込ませる。ジークの目が見開かれた。


「や、やった……!」


セラがほっと息をつく。


「はい。ですが、次はもっと簡潔に動きましょうね。連携が肝ですから」


「ふぅ……終わったな」


テオが息を整える。


「やっぱり、実戦で動くのって、簡単じゃないな……」


「私は良い経験になりましたけど……ジークさん、大丈夫ですか?」


セラがそっと尋ねると、ジークは唇を噛んだ。


「……正直、ちょっと不満。なんか、全然できてねぇ気がして……」


「できなくて当たり前だよ。まだ始めたばかりなんだ。できる方が、むしろおかしいくらいさ」


クロスの静かな励ましに、ジークは顔をしかめる。


「……でも、本当にできるようになるのか?」


「じゃあ、次は俺が魔法だけでやってみるよ。剣は使わない」


「無茶しないでくださいね、クロスさん。バランスが崩れる可能性もあります」


「大丈夫、多分ね」


クロスは微笑んだ。セラは少し困ったようにため息を吐いたが、それ以上は言わなかった。


討伐証明の部位を切り出し、肉も回収して、パーティは森を進んでいく。



しばらくは静かな移動が続いた。誰も口を開かず、風の音と落ち葉の踏みしめる音だけが耳に届く。


その沈黙を破るように、茂みから再び現れたグラスファングが2体。鋭い爪をむき出しにして突進してくる。


「来たか……!」


クロスは即座に動いた。剣は抜かず、軽やかに横へと跳ねる。


グラスファングの突進をひとつ、またひとつと躱しながら、反撃の機をうかがう。目の動き、足の踏み込み、呼吸の乱れ――すべてを読む。


三度目の攻撃を躱した瞬間、獣が振り返る動作に一瞬の鈍さが出た。


「――今だ」


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


氷の弾丸が真横から喉元に突き刺さり、グラスファングはそのまま崩れ落ちた。


一方、テオとセラもそれぞれ訓練通りに動き、敵の動きを封じながら連携し、問題なく討伐に成功した。


「……やっぱすげえな、お前。剣士だから避けられるだけだろ?」


ジークがふっと漏らすように言う。


「今の俺の動きは、10年の積み重ねの結果だよ。最初からできたわけじゃない。今、動けないのは当たり前なんだよ。でも、ジークだって走る訓練続ければ、同じ動きができるんじゃない?」


クロスが穏やかに言うと、ジークははっとした顔でうなずいた。


「……そうか……そう、かもな」


「素直でよろしい」


セラが笑い、ジークは少し照れながらつぶやいた。


「……悪かったな、ちょっとイライラして」


「気にするなよ、ジーク。パーティなんだから、悩みも喜びも分け合っていこうぜ」


クロスが笑って言うと、ジークの顔が赤くなった。


「そ、そんな軽々しく言うなよ……!」


「じゃあ、働かなかった分、討伐証明と肉の回収をお願いしますね」


セラがやや意地悪そうに笑って言った。


「……ま、任せろって!」


ジークが張り切って回収に取りかかる様子を見て、残る三人の頬には自然と笑みが浮かんでいた。



帰り道、クロスがぽつりと呟いた。


「明日の夕飯は、俺が泊まってる《月影の宿》で取ろう。料理、食べてほしいんだ」


「……楽しみにしてるぜ」


ジークが素直にそう言った。


だが、セラとテオは微妙な顔を見合わせる。


「……あの肉、本当に大丈夫なんでしょうか」


「食べ物の恨みは深いからな……」


そう呟いたテオの横で、クロスは「大丈夫だって!」と苦笑していた。


パーティとしての初期のぎこちなさを乗り越えつつ、彼らはそれぞれの宿へと帰っていった。


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