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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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継続する力

朝のラグスティアは、どこか活気に満ちていた。


ギルドの扉をくぐると、昨日と同じように人だかりと依頼掲示板の前でざわつく冒険者たちの声が響く。その中を縫うようにして、クロスは指定されたテーブルに向かった。そこにはすでにジークとテオが座っており、セラも間もなく合流していた。


「お、クロス。今日もよろしくな」


ジークが軽く手を挙げ、昨日より顔色の良い笑みを見せた。テオも「多少は回復した」とうなずく。


「今日こそ間引き依頼でもいけるんじゃないか?」とジークが言ったが、セラがきっぱりと首を横に振る。


「無理はしない。疲れが残ってるなら、地道な仕事を続けた方がいい。今日は魔物の縄張り調査に行きましょう。『北側湿地帯の生息状況記録』。戦闘はないけど、観察と記録はしっかりしないといけないから、意外と頭使うわよ」


セラは手元の依頼用紙を全員に見せる。ジークが顔をしかめる。


「湿地かぁ……泥に足とられんだよなぁ」


「訓練の一環と思って我慢しなさい」


そんなやり取りのあと、クロスがふと話題を変える。


「そういえば、皆はパーティ組む前ってどんな仕事してたんだ?」


ジークが腕を組んで言った。


「俺は冒険者登録してからずっと先輩について回ってたな。魔物も依頼も、基本的には『言われた通り動く』だけだった」


「俺もだよ」


とテオが続く。


「命のやり取りしてるんだし、先輩の指示を疑う余裕なんてなかったしな」


セラは少し目を伏せてから口を開いた。


「私は……8級に上がるまでは、9級の仲間たちと組んでた。でも、その中にね……私をただの“回復薬”くらいにしか思ってない人がいたの。怪我しても無茶を通して、文句だけは一人前。その人がいやで、パーティを抜けたのよ」


クロスは表情を引き締めて聞いていた。セラは微笑を浮かべる。


「そのあと、別の8級のパーティに入る予定だったんだけど、ちょうど教官がね。『今有望な9級がいるから、もしよければ』って、誘ってくれたの」


「それ、俺たちのことか……?」


ジークが驚いたように眉を上げる。


セラは静かにうなずいた。


「ええ。下のランクと組むと貢献度が貯まらないから普通はしないけど、教官がわざわざ言うくらいだから興味が湧いたので。今のところ、間違いじゃなかったと思っています」


「そりゃあ、光栄な話だな……でも、有望とか言われるとプレッシャーだ。特に俺、寝坊があるから……将来性、薄れるかもしれねぇぞ?」


「安心して下さい。ジークさんはその中に入っておりませんので」


とセラがにやりと笑い、全員がつられて笑った。


***


その日の仕事は、北側の湿地帯での魔物調査だった。


魔物の足跡や食べ残し、巣穴の痕跡を確認し、それを地図と記録用紙にまとめていく。沼地のぬかるみに足を取られながらも、4人は丁寧に調査を進めた。


途中、獣道の奥でクロスが新しい足跡を見つけた。


「これは……ラッシュホッグか? 少し前に通ったばかりだ」


「見分けつくんだな」とジークが感心する。


クロスはうなずいた。


「直接見たことはないんだけど、村じゃよく出たから、痕跡の特徴は覚えろと教えろと先輩に教わったんだ。足跡の形と、周囲の土のえぐれ方が特徴的なんだ」


「へぇ……俺ら、そこまでやったことなかったな」


「俺も……ただ歩いてただけだった」


「せっかくの調査なんだから、こういう時こそ観察力を磨いて」


とセラも加え、4人はそれぞれ自分の視点での調査に集中するようになった。


日が暮れる頃、調査を終えてギルドに戻った一行は報告書を提出し、無事に依頼を終えた。


***


その後、各自は訓練場へと足を運ぶ。


ジークとテオは走り込みと立ち回りの訓練、セラは回復魔法の応用の確認。クロスはカイロス教官のもと、《アイススパイク》の発動に挑んでいた。


「よし、集中して、魔力を一点に――」


「……っ!」


氷の槍がクロスの前に一本だけ突き出る。だが、それだけだった。


カイロスは残念そうに呟く。


「やはり一本が限界か……。だが、形になってる。制御ができてる証拠だ。威力はあとからついてくる。まずは確実に出すことだな」


そう言うカイロスの言葉に、クロスはうなずいた。


その後、ハルドとの剣の訓練でも汗を流し、充実した時間を終えた。


訓練後、ジークがぼやく。


「明日は仕事休みだな。ちょっとは寝坊できるか?」


「午後から訓練よ」とセラが即答。


「げ、またかよ……」


ジークが肩を落とすが、クロスはすっと真顔で言った。


「続けないと、成長できないからな」


「お前、ほんと真面目だよな……そんなに続けられるのか?」


ジークが苦笑まじりに尋ねると、クロスは剣を鞘に収めながら答える。


「剣の修行は、故郷にいた頃から十年、毎日やってる。今さらやめる方が落ち着かないくらいだよ」


その言葉に、ジークもテオも驚いて目を見開いた。


「十年……マジかよ」


セラは笑いながら言う。


「上位冒険者は、みんなそれくらいの向上心を持ってるわ。だからこそ、私たちも続けないと」


三人はそれぞれ深くうなずき、その日の訓練は終わりとなった。


***


宿へ戻る前、クロスはひとつ立ち寄る場所があった。


それはアシュレイの商会《ゴールドロット商会》だ。ギルド通りを一本外れた石畳の小路にあり、夕方にもかかわらず活気のある声が中から聞こえてくる。


応接室に通されてしばらくすると、アシュレイが中年の男を連れてやってきた。


「待たせて悪いね、クロスくん。この人はうちの番頭、グラン。今日は同席させてもらうよ」


「初めまして、クロス殿。アシュレイ様から話はよく伺っております」


深く礼をするグランは、口調は丁寧だがどこか商売人らしい鋭い目をしていた。


「今日は新しい料理の相談をしたくて来ました」


クロスが切り出すと、アシュレイは目を輝かせた。


「おお、また君が考えてくれたのか! もちろん買い取るとも!」


しかし、グランが一歩前に出て口を開く。


「差し支えなければ、どのような料理か教えていただけますか?」


「……グラスファングの肉を使ったものです」


その名を聞いた瞬間、グランの顔に僅かな緊張が走る。


「グラスファングですか……スジばかりで癖が強く、流通に乗ることが少ない素材ですが……」


アシュレイはすぐにかぶせるように言った。


「大丈夫だよ、グラン。彼が考えた料理なら、きっと価値がある。今までだって……」


「ですが、商会としての判断も必要です」


やや静かながら、二人の意見は対立し始めていた。


クロスは少し考えた後、提案する。


「……よければ、今から宿に来ませんか? 昨日、実際に作って保存してあります。味を確かめてから判断してもらえればいいと思います」


二人は顔を見合わせた後、うなずいた。


「それは……ありがたい提案ですな」


「よし、そうと決まれば、行こうじゃないか!」


クロスの提案によって、料理の真価が試される夜が始まろうとしていた――。


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