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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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それぞれの課題、それぞれの訓練①

ギルドで話し合った通り、今日はパーティ仕事は休みにし、各自が武具の整備や訓練に専念する日とした。クロスは朝早くからギルドで雑用仕事を受け、市場へ向かった。今日の仕事は市場の荷物運びだ。


「お兄さん、悪いけどこの箱、あっちの倉庫まで頼めるかい?」


「はい、すぐに」


朝の市場は活気に満ちている。肉の匂いと焼きたてのパンの香りが交差し、売り声と人のざわめきが行き交う。クロスが黙々と荷物を運んでいると、声をかけられた。


「お前さん、見ない顔だね。新人かい?」


「はい、ベルダ村から来たばかりです」


「ほぅ、ベルダ村か。あっちは静かな所だって聞いたよ。よくこの町に来る気になったな」


荷運びをしながら、市場の人々と少しずつ会話を重ねる。重い荷物を運び終えた後、クロスは屋台通りへと足を運ぶ。


「兄さん、今日のおすすめはスパイシー串焼きだ!ボア肉と野菜を香辛料でガツンと焼いてるぜ」


「じゃあ、それを一本と……ラグスティア風のサンドも一つ」


サクサクのパンに地元産の野菜と焼いた肉を詰めたサンドは、町の名物らしい。軽く食べ歩きながら、ギルドへ戻った。



昼過ぎ、ギルドの訓練場にはすでに仲間たちが集まっていた。


「それでは、始めましょうか」


セラがにこやかに声をかけた。昨日話し合った通り、今日はそれぞれの課題を見つけて、それに向けた訓練を行う日だ。



---ジークの訓練---


火魔法を得意とする、イグス教官が腕組みしたまま話し始めた。


「――いいか、ジーク。魔法ってのは“有限”だ。お前が思ってるより、ずっとな」


「……わかってますよ。だから回数は数えてるし、無駄に撃ってるつもりは――」


「“つもり”で撃ってるうちは、死ぬ」


イグスは淡々と断言した


「魔法を当てようとして外す。外したぶんだけ魔力が減る。魔力が切れた時、お前の体に何が残る? 剣もない。盾もない。

なら、走るしかねぇんだよ。走って逃げて、走って回って、隙を作って撃つ。

魔法使いに必要なのは――“動ける体”だ」


「…………」


ジークも言ってる事が正論だと言うことはわかってるので目を逸らし、押し黙る。


だが、イグスはさらに言葉を重ねる


「お前が魔法を放つ姿を見てて、俺は確信した。お前の目はいい。集中力もある。

だがな、それを支える“持久力”が圧倒的に足りない。だから、お前の訓練はまず――“走ること”からだ」


そう言って、カイロスはギルドの建物を指差した


「町中を5周。しっかり走れ。途中で倒れても、歩いて戻れ。

それができなきゃ、実戦じゃ生き残れねぇ」


ジークも流石に文句が口から溢れる。


「……他の魔法使いは、そんなのやってたんですか?」


イグスが真顔で頷く


「本物はな。奴らは“ここぞ”って時にしか魔法を使わねぇ。撃てば倒せる。逃げ場を封じる。そういうタイミングまで、魔力を温存しておくんだ。

その間は動いて逃げて、走って位置取りして、敵の意識をずらして……そういう動きができる体がある奴だけが、生き残る」


イグスは続けてジークに語りかける。


「これは魔法の“基礎”だ。

いいか、ジーク。お前が撃ちたい“その一発”を決めるためには、“撃つまで動き続ける力”が必要なんだよ。

それがない魔法使いは、ただの的だ」


(ジークは肩を落とし、ぼやきながらも立ち上がる)


「うう、走るだけの魔法ってどっかに落ちてないかな……」


イグスはくすっと笑いながら、


「あったら俺も使いたいな」


と笑う。


ジークはしぶしぶ走り出した。その背に向けて、イグスは低く呟いた


「――走れる魔法使いは、撃てる魔法使いだ。覚えとけ」



---テオの訓練---


訓練場の端。大盾を構えたまま、テオは無言で立ち尽くしていた。視線の先には、ハルド教官。真剣な眼差しを向けている。


「……やっぱり俺は、正面から受けるやり方でいいと思ってます」


テオが口を開く。朴訥で、飾り気のない声音だった。


「バルスさんも……そうでしたから。あの人の戦いを見て、自分も盾を持ちたいと思った。みんなの前に立って、全部受けて、それでも倒れない姿が、格好よかったんです」


その言葉に、ハルドはしばし黙した後、少しだけ顎を引いた。


「お前がパーティで、最後に魔物を倒せなかった理由は覚えてるか?」


「……はい」


「お前だけが、他の誰よりも疲れ切っていた理由は?」


「……それも、はい」


「盾はな、テオ。ただ“攻撃を受ける”もんじゃねぇ。パーティ全体の負担を“減らす”ことで、結果的に“護る”ものだ」


テオは黙って聞いていた。真面目な彼には、ハルドの言葉の意味がまっすぐに届いていた。


「正面から無理に全部を受けて、自分一人が潰れそうになる。それじゃあ盾じゃねぇ。“囮”だ。そんな戦い方じゃ、お前も仲間も長く持たん。お前が護りたいのは“誰”なのか、よく考えろ」


「……でも……俺は、バルスさんに憧れて……」


「バルスのやり方は、奴の“体”があってのもんだ。あの巨体だからこそ、正面から全部受けきれる。中肉中背のお前がそれを真似ても、潰れるのがオチだ」


ハルドは一歩前に出て、テオの肩に手を置いた。


「バルスの真似をするな。お前だけの“やり方”を探せ。憧れで突っ走って、死んじまったら、バルスは喜ぶと思うか?」


テオの表情がぐっと引き締まる。しばし俯いたまま黙っていたが、やがて力強く頷いた。


「……わかりました。俺、やってみます。

みんなの負担を減らせるなら……それが盾の役目なら、俺も……」


彼の手が自然と、自らの盾をぎゅっと握り直す。


「俺、ちゃんと身につけます。……憧れだけじゃ、護れねえって、知ってますから」


ハルドはそれを見て、ふっと笑った。


「よし。なら、お前には“流し盾”を教えてやる。相手の力を受けるんじゃねぇ。

“流す”んだよ。受け流して、動きを崩す。それが、お前の盾術の“入口”だ」


「……はいっ!」


短く、だが力強く返事をするテオ。盾を構える腕に、確かな決意が宿っていた。



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