初めてのパーティ戦闘②
風が流れる草原で、揺れる草の波が突然裂けた。
唸り声と共に姿を現したのは、中型の灰色の獣――グラスファングだ。
体長は大人の人間より少し大きく、筋肉質な四肢を持ち、背には短いが硬そうな毛が逆立っている。長く鋭い牙が上下から突き出し、口元からは唾液が滴っている。
何より特徴的なのは、鋭く光る目と前脚の鉤爪――草を抉り、突進することに特化した構造だ。
「三体です!」
クロスの声に、セラがすぐに叫ぶように指示を飛ばす。
「中央はクロスさん、右はテオさん。後方の個体は私とジークさんで抑えます!」
即座に動き出す四人。クロスは正面の個体と相対し、剣を構える。
(灰色の体躯……筋肉の張り……突進型だな。飛びかかりの瞬間が狙い目のはず)
グラスファングが牙を剥いて突進してくる。速度も力もあるが、直線的だ。
クロスは一歩左へ跳び、背後へ回り込むように脚を滑らせる。
(森と違って足場がいい……そこは助かるな)
草原の土は乾いており、足を取られることもない。ベルダ村の森では、木の根や湿地に苦しめられたが、今は違う。飛び込んでくるグラスファングの勢いを横に受け流し、剣を振り抜いた。
その動きに対応しきれなかった獣がわずかにバランスを崩す。
「ッ……今だ!」
足元を斬りつけて動きを鈍らせ、そのまま脇腹へ横薙ぎの一撃を放つ。
毛皮の下に確かな感触。返す刀でもう一撃――だが、獣も負けじと体を捻って反撃する。
爪が肩口をかすめる。浅いが痛みが走る。
(くっ……当たったか。でも、問題ない)
クロスは足を止めずに回り込み、三度目の斬撃で首筋を捉えた。グラスファングが痙攣し、その場に崩れ落ちる。
「……一体目!」
呼吸を整え、残心のまま仲間の様子を見る。
右手ではテオが盾を構えて押し返されていた。グラスファングは何度も突進を繰り返し、盾にぶつかっては離れ、また突っ込んでくる。
「くそっ、力は大したことねぇのに……下がって構え直す時間がねぇ……!」
テオは真面目に受け止めすぎていた。反撃のタイミングが取りづらいのだ。足元の草が踏み荒らされ、踏ん張りが効かなくなっている。
(正面から押し返すには不利か……もう少し、角度をずらせれば…………)
一方、後方ではセラとジークのペアが苦戦していた。
「ジークさん、正面に撃ってはダメです! 草に燃え移ります!」
「わっ、悪い! でもこれ以上近づけねぇって!」
ジークが慌てて火球を散らし、セラの前に立っていた草が焦げる。
セラはその間もスモールシールドで必死に攻撃を受け止めていた。小回りの利く彼女の盾がなければ、ジークは既に引っかかれていたかもしれない。
「位置を取り直してください! 私が引きつけます!」
「わ、わかったって! すぐに!」
(ジークさん、詠唱は速いが……距離感と連携が未熟だ。セラさんは盾の扱いに慣れてるけど、前に出続けるには無理がある……)
クロスは剣を握り直した。
(このままじゃ、誰かが怪我をする。テオは守りに徹してるが、攻めに転じられない。ジークとセラも連携が取りきれてない……)
クロスの目が鋭く細められる。仲間たちはそれぞれ必死に役割を果たそうとしている。なら、自分にできることは一つ――。
「俺が、もう一体やる」
呟くと同時に、地面を蹴った。
剣を手に、再び草原を駆け抜ける――。




