初めてのパーティ戦闘①
朝の空気はまだひんやりとしており、陽が建物の屋根を照らし始める頃。クロスは早めに朝食を済ませ、装備の最終確認をしてからギルドへと向かった。
今日から、パーティとしての初仕事が始まる――そう思うだけで、心のどこかが少し緊張していた。
ギルドに到着すると、すでに多くの冒険者たちでごった返しており、依頼票を求める声が飛び交っている。その中で、入り口近くに現れた一人の青年と目が合った。
「お、クロス!」
入り口で声をかけてきたのはテオだった。分厚い革の肩当てに大盾を背負い、口数は少ないが、真面目な男だ。
「おはよう、テオ。早いな」
「うん。こういう日は……なんだか寝てられなくてな」
言葉少なながらも、微かに笑みを浮かべるテオにクロスも頷いた。
2人がフロアを見渡すと、丁度、セラがカウンターから依頼票を手に歩いてきた。整った銀髪を後ろで束ね、修道院出身らしい品のある佇まいだ。
「おはようございます、クロスさん、テオさん」
軽く手を振って呼ぶセラの声は柔らかく、しかしどこか凛としていた。
「おはよう、セラ。依頼、もう受けてくれたのか?」
クロスが歩み寄りながら聞く。
「ええ。《グラスファング》の間引き依頼です。町の北にある草原にて、活動域を広げている個体が確認されたとのことです。ランク9級向けとのことで、ちょうど良いかと」
「なるほどな」
テオが頷きながら依頼票を覗き込んだ。
「グラスファングか……突進と噛みつきが鋭い魔物だな。2〜4体で群れて動くって聞いたことがある」
「はい、その通りです。数の見誤りがあると少々危険ですので、油断せずいきましょう」
そこへ、のんびりとした足取りでジークが現れた。
「あ〜おはよー。お、みんな集まってるじゃん。おつかれさまっす〜」
「ジークさん。すみませんが……みなさんで受ける依頼ですので、時間はきちんと守っていただけると助かります」
セラが優しく、しかしきっぱりと指摘する。
「う……ごめん! 次からはマジでちゃんと来るから! 朝飯が思いのほか……」
「いえ、気をつけていただければ構いません。でも、もし遅刻が続いたら……来月にはジークさんがパーティにいないかもしれませんね?」
柔らかな笑顔を浮かべながらセラが言うと、ジークは顔を青くして手を合わせる。
「マジごめんってば! ちゃんとやるって!」
セラが笑いながらギルドの外に向かい、それを追いかけるジーク。残されたクロスとテオは顔を見合わせ、少し苦笑した。
「……まぁ、にぎやかで悪くないな」
「うん、悪くない」
◆ ◆ ◆
町を抜けて北へ向かう道すがら、セラが全員を振り返った。
「みなさん、念のため荷物の確認をしましょう。今日は日帰りの予定ですが、今後は野営の依頼もあり得ますので。食料に水。火打石と治療薬、短刀、寝袋……最低限、それらは忘れないでくださいね」
「よし、今日は持ってきてないけど、全部持ってる。寝袋も完璧!」とジーク。
テオも静かにうなずく。
クロスは寝袋を買ってないことを思い出し、町に戻ったら買い足す事を心に留めた。
草原が見えてきたタイミングで、クロスは少しだけ前に出た。
「隊列のことなんだけど……。ベルダ村での依頼では、先頭を任されたことが何度かある。そんなに経験があるわけじゃないけど、今日は自分が前を歩こうか?」
テオは静かに頷き、ジークは軽く肩をすくめた。
「俺ら、先輩たちと組んでただけだしなー。経験ないから頼んだ!」
「はい。クロスさんが先頭で問題ありません。では、中衛に私とジークさん。テオさんには殿をお願いできますか?」
「……任せろ」
整列したパーティは、緩やかな丘を越え、広がる草原地帯へと歩みを進めた。風が草を揺らし、時折、小動物のような足音が草むらの奥から聞こえる。
そして――
「……いた。あれが《グラスファング》か」
クロスが手を挙げて指し示した先に、中型の灰色の獣が草を掻き分けて現れた。牙を剥き、低く唸るその姿は、まさに牙獣と呼ばれるにふさわしい迫力を持っていた。
「よし、やってみよう」
クロスは剣に手をかけ、一歩、踏み出した――




