ラグスティアの町
第2章の大体の構成が出来たので再開します。
また、よろしくお願いします。
ラグスティアの街に着いてから、ちょうど一週間が経った。
宿の部屋に腰を下ろし、クロスはようやく一息をついた。ようやく落ち着いて、この一週間を振り返る余裕ができた。
ベルダ村を出て、街までの道中は何事もなく平穏だった。同行したラグスティアの冒険者たちは緊張感を保ちつつも、どこか余裕があり、クロスはその空気に助けられていた。中でもまとめ役の6級冒険者カランは、冷静沈着な人物で、常に状況を俯瞰していた。
「これだけの人数で動いていれば、魔物も簡単には寄ってこないさ」と、カランは笑っていた。
「それなら、商人も大勢で動けば安全なのでは……?」
そう尋ねたクロスに、カランは少し考えてから答えた。
「そういうやり方が通じるのはこの辺りまでだな。街道沿いの村ならまだしも、もっと大きな都市間では大型の魔物や群れで動く魔物も多い。護衛もただの人数じゃなく、質も必要になる。第一、少人数で動いた方が赤字になりにくいしな」
なるほど、とクロスは頷くしかなかった。地球の常識では通じない部分がまだまだ多い。
ラグスティアのギルドに到着後、まずは所属変更の手続きを行った。対応してくれた受付嬢――セリアという女性は、事務的ではあったが丁寧な対応をしてくれた。
その場で偶然、以前アミナ村に派遣されていた4級冒険者のグレイスに再会した。といっても、ベルダ村を発つ際に乗せられた馬車から見かけた程度で、直接の面識はない。それでもグレイスは話しかけてきた。
「久しぶりね、クロスくん」
「……あの、グレイスさんでしたっけ?」
「ええ、この前は名乗っただけだったからね。君のことはナタリー教官やリオンから話は聞いてるわ。あなたの氷魔法が、あの戦いを勝利に導いたって。……本当にすごいわね」
そう言って微笑んだグレイスの目には、どこか探るような光も混じっていた。クロスは少し緊張しながら礼を述べ、早々にその場を離れた。
一方、グレイスの後方でそれを見ていたのは、同じく4級冒険者のフロレアだった。
「随分と丁寧に声をかけてたじゃない」
「気になるでしょ、あの子。……私、氷魔法であそこまでの威力って初めて聞いたもの」
「なるほどね。まぁ、本当かどうかは直ぐにわかるだろうし、話し盛ってなければいいけどね」
そんな会話がされているとは知らずに、クロスはマリアに紹介された商人――アシュレイの店を訪れた。
アシュレイは25歳。この店の3代目で、少々頼りないところもあるが、裏方には厳格な番頭が控えているという。それもあって本人は時々新しいものや珍しいものを求めて行商に出かけては、番頭に小言を言われている。当人はまったく反省することはない様子だが…
「調味料のレシピ、ありがとう。おかげで随分と売れ行きが良くなってね」
今回は本当に売れるものを仕入れることが出来たので、番頭に大きな顔ができてアシュレイとしても笑顔になってしまうのも無理はなかった。
「いえ、あれはマリアさんの宿のために考えたものですから」
「なら、次はうちの店のために考えてくれると助かるな。もちろん、買い取らせてもらうよ?」
アシュレイは笑顔で提案した。
「それなら、9級の僕でも長く泊まれる宿、紹介してもらえませんか?」
「任せて! うちの従業員にすぐ連絡させるから。『自分が保証する』って伝えれば、多少は割安で済むはずだよ」
そう言って番頭に手配を頼みながら、アシュレイは武具のおすすめ店も教えてくれた。
「……えっと、日用品なら、どこが?」
「うちだよ!」
「……すみません」
クロスは苦笑しながら頭を下げる。
その後は、武具の点検や日用品の買い出しを終え、ギルドへ戻った。訓練教官のトール(戦士系)と魔法教官のカイロス(魔術師系)に挨拶する。
特にカイロスは、グレイスからクロスの氷魔法について聞いていたらしく、目を輝かせてこう言った。
「いやぁ……氷魔法ってのは、まったく実戦には向かない魔法で使えるにしてもノルヴァン連邦出身者。しかし、君のはその彼らよりも高威力って話しだから、この目で見れるが今から楽しみだよ」
ハルドもまた、物腰は柔らかいがその目には静かな闘志が宿っていた。
「しばらく様子を見て、少しずつ剣の訓練も組んでいくからな。無理せず、だが遠慮もしないように」
クロスは苦笑しながら頭を下げるが、どこか背筋が伸びるような気がした。
――明日からが本番だ。
部屋に戻ると、そんな想いが口から漏れた。
「さあ……ここでも、頑張っていこう」




