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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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報告と疑念

ラグスティア町――中央通りの石造りの重厚な建物、それが冒険者ギルドである。

そのギルドの奥、静まり返った会議室には8人が集まっていた。


ギルド職員のバリスと、4級冒険者のグレイス。

そしてラグスティアのギルドを束ねる男、ギルドマスター、ヴォルグ。

冷徹な判断で知られる女性サブマスター、ミレーナ。

他の4級冒険者たち――

沈着な射手フロレア、実直な斧使いバルス、快活で世話焼きな治癒師セリナ、そして短気で粗野な火魔法使いグラハム。


「――以上がアミナ村で発生したゴブリン襲撃事件と、その後の調査結果になります」


報告を終えたバリスの声に、部屋の空気が一段と重くなる。


その報告に、場の空気が一瞬凍りつく。


「ベルダ村のドルトンからの報告とも一致する……ゴブリンの群れがそれだけいたなら、ファイターかアーチャーの1匹や2匹はいると思ったが……まさか、ブラッドゴブリンとシャーマンがいたとはな」


ギルドマスター、ヴォルグが重苦しい声で言った。


ミレーナが続けて、


「ブラッドゴブリンとゴブリンシャーマンの同時出現など、並の村では壊滅もありうる脅威だ」


「……ふむ。住民の被害は?」


ヴォルグが低い声で問う。


「ゼロです。戦死したのはベルダ村の教官1人と冒険者1名に重傷者が3名。そのうち1名は片目を失ったそうですが……」


サブマスターのミレーナが珍しく言葉を失ったように呟く。


「たったそれだけで済んだのか……?」


フロレアが驚きに目を丸くし、隣のバルスも眉を寄せてバリスに聞いた。


「ベルダ村に高位冒険者でもいたのか?」


「いえ。戦闘に参加したのは6級が2名と、引退した教官たち。それ以外は7級以下の11人で、現役で上位の者はいません」


「それで、上位種を退けたと? 本当に?なんか、見間違いってオチじゃないのか?」


苦笑しながらバルスが茶化す。グラハムも鼻で笑う。


「ありえねぇって。ゴブリンの上位種を6級とそれ以下の冒険者に引退した教官で討伐?どうせ話を盛ってんだろ。それに、ブラッドゴブリンを氷魔法でどうこうできるやつなんか、そういない。俺が知る限り、ノルヴァン連邦の氷魔術士だって、そこまでじゃなかったぜ?そんな話、俺なら酒の席でも信じねぇ」


「私も最初はそう思ったわ」


グレイスがゆっくりと口を開いた。


「でも、私はシャーマンとブラッドの死体、そして彼の残した氷の痕跡をこの目で見てきた。間違いない」


「で、お前らはそいつの魔法を見たのか?」


グラハムの質問に、グレイスは首を横に振る。


「いいえ。私も、バリスも直接は見ていない。けれど、結果がすべてを語っているわ」


「じゃあ、証拠にならねえだろが!」


苛立ちを隠さずにグラハムが立ち上がり、机を軽く叩く。


その空気を和らげるように、セリナが微笑を浮かべながら言葉を発した。


「でも、サラとハナが無事でよかった……あの子たち、私の妹弟子なのよ。真面目で優しくて、治療魔法の訓練も一生懸命だった。重傷者の治療に関わったって聞いて、ベルダ村に戻ってからも訓練を続けてたみたいで嬉しいわ」


その言葉に、場の緊張がふっと緩む。


ミレーナが机に手を置き、視線をギルマスターに向けた。


「――で、その氷魔法使い。名前はクロス、でしたか。身辺調査を行いますか?」


少しの間が流れ、バリスが答えた。


「彼はベルダ村の出身者ではありません。おそらく、遅かれ早かれこの町に姿を現すでしょう。その時に、実力と人間性を見極めてはどうでしょうか?」


「ふむ……それでいい。なまじ外部の者をかぎ回して信頼を失うのは避けたいしな」


ギルマスターの言葉に、4級冒険者たちも頷いた。


その流れを受けて、ギルドマスター・ヴォルグが静かに席を立ち、サブマスターのミレーナに目をやる。


「……さて、今後の対応だが――アミナ村への支援については、まず領主に掛け合わねばなるまい」


「ええ。領主には、ギルドから復興支援金の拠出を要請する旨、あなたの名で直接話を通してもらえますか?」


「もちろんだ。あの村は人的被害こそ最小限で済んだが、畑や建物の損耗は大きいだろう」


ヴォルグはうなずき、重い声で言う。


「問題は、ブラッドゴブリンとシャーマンが“なぜ”あの村を狙ったのか、だ」


報告書を手にしていたバリスが補足する。


「野営跡からの調査では、確かに上位種が滞在していた痕跡はありましたが……何らかの術式や魔具の類は見つかりませんでした。決定的な“外部からの干渉”の証拠はない、というのが実情です」


「だけど、疑わしいのは間違いないわ」


ミレーナがすかさず言葉を重ねた。


「しばらくの間は、アミナ村周辺に対する討伐依頼と周辺調査依頼を、こちらから継続して発注しましょう。ラグスティアの冒険者達でローテーションを組み、外部干渉の兆候がないかを観察します」


「そうだな……依頼名目は“周辺魔物の掃討と警戒監視”で構わんだろう。仮に何かが潜んでいたとしても、それで炙り出せる可能性がある」


「はい。現地に残っている者たちにも、無用な緊張を与えずに任務を続行できます」


セリナがそれに賛同するようにうなずいた。


「私も次の派遣隊に入れてちょうだい。アミナ村の子たちの様子も見ておきたいし、サラやハナにも久しぶりに会いたいわ」


グラハムがやや不満げな表情で腕を組む。


「まぁ、いいさ。証拠がねえ以上、疑っても始まらねぇ。だが何か出てきた時は、真っ先に教えろよ?」


ヴォルグは頷き、深く息を吐いた。


「――現時点では、動かせるのはそれが限度だ。それぞれの役目に戻れ。……次の報告を、待つとしよう」


ヴォルグは組んだ腕を解き、静かに立ち上がった。

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