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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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異常なる才

ランクアップから数日が過ぎ、クロスは再びいつもの生活に戻っていた。

朝は薬草収集の仕事、昼にギルドへの報告、夕方からは訓練場での稽古。

特別な出来事があったわけではないが、それでも日々は確実に前へと進んでいた。


そんなある日、薬草収集の帰りにギルドに寄ると、ナタリー教官が訓練場に現れた。


「よ、クロス。少し付き合ってくれ」


「……訓練ですか?」


「そういうこと。前の戦いでどれだけ腕が上がったか、見てやろうと思ってな」


クロスは苦笑しつつ木剣を手に取る。

ナタリーも軽く肩を回しながら構えた。


「遠慮はいらないぞ。――こい!」


剣と剣が激しく打ち合い、木製の音が訓練場に響く。

攻め込むクロス、受け流すナタリー。だが、次第に攻防の均衡が崩れていく。


(動きが……見える!)


クロスは一瞬の隙を突き、低く踏み込んだ。

剣の角度をずらし、胴への一撃。


「……っ! やるじゃないか!」


ナタリーが息をつき、木剣を下ろした。


「完全に崩されたよ、今のは。クロス、お前……確実に強くなってるな」


「ありがとうございます。でも……戦いの中で何かが変わった気がして、自分でもうまく言葉にできなくて……」


「だからこそ、確かめたいことがある」


ナタリーはそう言うと、クロスをギルドの裏手にある魔法訓練場へと連れていった。

そこには既に、グレイ教官とギルドマスターのドルトンが待っていた。


「これは……」


「驚くな。お前の魔法が、ギルド内でも注目されているってことだ」


ナタリーが言い、ドルトンが静かに頷く。


「アミナ村の報告は聞いた。お前が放った魔法の威力が、上位種を討つほどだったと。――だが、それを実際にこの目で見なければ信じられん」


「……わかりました」


クロスは一歩前に出て、右手をかざす。


「冷たき精よ、我が手に宿り、触れるものを凍てつかせよ――《アイスタッチ》」


標的に設置された木の柱に触れると、その瞬間、柱の表面が音を立てて凍りつく。


続けてもう一つ。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


撃ち出された氷の矢が岩に直撃し、表面を凍てつかせながら小さな亀裂を走らせた。


「……こりゃ、まじか」


グレイがぽつりと漏らす。


「詠唱は……俺が見せた手帳の通りだったな。それで、なんでこんな威力になる?」


ドルトンも、真剣な眼差しでクロスを見つめる。


「……正直、分かりません。手帳で詠唱を覚えたあと、自分で練習しましたけど……。それ以外、特別なことはしていません」


クロスは現代知識での魔法強化については話せないと思いそう説明した。


「だが、その威力は明らかに常軌を逸している」


ナタリーが言う。


「ノルヴァン連邦の魔法使いでも、それほどの威力と効果はありえないそうだが、お前自身に何かあるんじゃないのか?」


ドルトンが尋ねると、クロスはわずかに言い淀みながら答えた。


「……いえ。覚えているのは気がついたら森の中にいたってことだけです。ですが、時々、自分の中に何かが流れ込むような感覚があります。力が膨れ上がるような……そんな瞬間が」


三人は黙って顔を見合わせた。


「……わかった。今はこれ以上聞くまい。ただし、今後もこの件はギルドとして注視させてもらう」


「はい」


クロスは静かに頭を下げた。


「ただな、クロス。お前ほどの力なら、この村だけにとどまってる場合じゃない」


グレイ教官が言った。


「今はまだ未熟でも、その魔力と成長の速さ……いずれはもっと広い世界に出たほうがいい。その時が来たら、ラグスティアの町に行け。そこで学べることは多いはずだ」


ナタリーも頷いた。


「お前は村の希望だ。だが、同時に世界に通じる力を持っている。ここに留まるべきではない」


クロスは静かに頷いた。

ベルダ村は、自分の居場所だ。だが、それだけでは終われない。


(……いずれ、行かなくちゃならない)


そんな思いを胸に抱えたクロスだったが、ふと視線を落とし、小さく息を吐いた。


「それは……そのつもりです」


ナタリー、グレイ、ドルトンが視線を向ける。

クロスは、ゆっくりと言葉を続けた。


「俺を拾ってくれて……この村まで連れて来てくれた人がいました。マルコっていう商人です。俺がまだ何もできなかった頃、服も寝る場所もお金も用意してくれて……」


記憶の奥に、優しく笑うマルコの顔が浮かぶ。


「あの人に言われたんです。“一人で立てるようになったら、どこかで一人前の冒険者になったら、俺に返しに来い”って」


クロスは拳を握った。


「だから俺、冒険者としてちゃんと成長して、いつかマルコに会いに行って……借りたお金も、恩も、全部返すつもりです。それが俺の――今の目標です」


ドルトンは、静かに目を細めて頷いた。


「……そうか。なら、なおさら今ここで止まるわけにはいかんのぉ」


グレイは満足そうに腕を組み、ナタリーはどこか誇らしげな顔でクロスを見つめていた。


「その覚悟があるなら、いつでも出ていける。――だが、焦るな。お前にはまだ、伸びしろが山ほどある」


「はい!」


クロスの声は、村の静かな夜気に凛と響いた。


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