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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
46/206

覚悟の一歩

 火の粉と血の臭いが入り混じる戦場の中心。


 吠える獣のような咆哮を上げながら、ブラッドゴブリンは暴れ続けていた。

 右腕はクロスの《フロストショット》により凍結し、剣を振るうことはできないはずだった。左脚も凍り、自由に動けるはずがない。


 ――それでも、止まらなかった。


 荒れ狂う左腕が土を穿ち、跳ね上がった岩が冒険者たちの顔をかすめる。

 苦し紛れの一撃でも、十分に致命的だった。


そんな怪物の前に、クロスとリオンは並んで立っていた。


 クロスは、ちらりと横目でリオンの顔を見た。

 血で汚れた顔に疲労の色がにじんでいる。それでも、真っすぐに敵を見据える瞳は揺れていなかった。


 「リオンさん……聞いていいですか?」


 「……なんだ」


 「リオンさんに――あいつに通じる決定打はありますか?」


 リオンはすぐには答えなかった。

 唇を噛み、眉根を寄せたまま目を伏せる。


 「……ない。今のままじゃ、あの巨体を一撃で仕留める術はない。動きを封じることはできても、それだけだ」


 クロスは、静かに頷いた。


 それは、彼の中で一つの覚悟が固まった瞬間だった。


 「なら、俺が隙を作ります。リオンさんがとどめをお願いします――それしかない」


 「な……! 馬鹿なこと言うな!」


 リオンが声を荒げた。


 「あんな化け物に近づけば、ただじゃ済まないぞ!」


 「わかってます。でも、他に手がありますか?」


 言葉に詰まるリオン。


 クロスは視線を前に戻し、ゆっくりと続けた。


 「ここで倒せなきゃ、誰かがまたやられる。時間をかければ、あの凍結も解けるかもしれない。だったら、今しかない。……お願いです。俺に賭けてください」


 しばしの沈黙。


 夜風に戦場の臭いが流れ、傷ついた仲間たちの呻き声が遠くに聞こえる。


 やがて、リオンは低く呻くように言った。


 「……分かった。だが、戻ってこい。お前が倒れたら、何の意味もない」


 クロスは微かに笑った。


 「分かりました。――絶対に、戻ります」


 その言葉とともに、彼は剣を握り直し、再びブラッドゴブリンのもとへ駆け出した。


 クロスは、ブラッドゴブリンに向けて走り出した。


 選んだのは《フロストショット》ではなく、アイスタッチ。


 この手で、直接凍らせる魔法。

しかし、魔力は枯渇寸前。使えば自分は確実に気絶する。でも……


 (せめて、あと一歩……)


 凍結した右腕の死角を突くように回り込み、跳ね上がった左腕をすれすれで躱す。


 それでも、クロスは駆けた。


 「冷たき精よ、我が手に宿り――触れるものを凍てつかせよ……!」


 《アイスタッチ》――。


 地を滑るように踏み込み、凍気の魔力を左手に宿す。

 その手が、ブラッドゴブリンの腹部に触れた瞬間、冷気が弾けた。


 「グオオオオアアア……ッ!!」


 凄まじい咆哮と共に、凍結が始まる。


 だが――


 ブラッドゴブリンは、止まらなかった。


 最後の意地か、抵抗か。

 凍りつく身体を揺らし、左腕が振り上げられる。


 「――っ!」


 クロスは剣を立てて防御する。


 激しい衝撃。


 吹き飛んだクロスの身体が空を舞い、後方の木に叩きつけられる。

 「がはっ……!」と吐き出した血が夜風に散った。


 そして――


 リオンが動いた。


 「――今だッ!!」


 凍結し、身動きの取れないブラッドゴブリンに向け、槍を構える。


 まるで滑るように接近し、槍の穂先が深々と胸に突き刺さる。


 「グ……ア……ァ……」


 それは、獣の断末魔。


 リオンの槍が深く貫かれ、ブラッドゴブリンの巨体が崩れ落ちた。


 ――終わった。


 だが、その場にクロスの姿はなかった。


 リオンが振り返ると、クロスは木の根元に倒れていた。

 剣を握ったまま、動かない。


 「クロス!!」


 リオンが駆け寄ろうとする。だが、その前にサラが駆けていく。


 倒れたクロスの様子を確認し、すぐに治癒魔法を行使する。


 「意識は……ありません。でも、かろうじて、命はあります!」


 その言葉に、リオンが安堵の吐息を漏らした。


ゴブリンシャーマンとブラッドゴブリンが倒された事でゴブリンたちの力や耐久力も元に戻り、冒険者たちはボロボロになりながらも討伐が完了した。


 戦場に、ようやく静寂が戻る。


 だがその静寂は、決して穏やかなものではなかった。

 多くの犠牲と痛みを伴った静寂であった。


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