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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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咆哮の獣

 ゴブリンシャーマンが倒れた直後――

 戦場に、わずかな間の沈黙が訪れた。


 その瞬間を、ラグナの怒声が打ち破る。


 「残りは十体前後だ! 焦るな、数ではこっちが勝ってる!」


 仲間を鼓舞するように叫ぶが、その顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。魔法使いの彼の全身にも戦闘の傷痕が刻まれている。


 弓を使い果たしたハンスとセルスは、それぞれ鉈剣を手に取り、剣士たちと共に接近戦に加わっていた。しかし、接近戦に慣れない二人には荷が重い。


 「ぐっ……!」


 セルスが一体のゴブリンと剣を交えるが、反撃を受けて体勢を崩す。ハンスがすかさずカバーに入るが、振るう鉈剣は鈍く、狩人らしい俊敏さが薄れていた。


 (まずい……疲労が、ここにきて……)


 そんな中、戦場の中央――

 あの存在は、なおも動いていた。


 ブラッドゴブリン。


 異様なまでに発達した肉体。血の匂いを纏う巨躯。


 シャーマンの死を察したのか、わずかに動きを止める。


 その隙を逃さず、ベルク教官が動いた。


 「いまだ……!」


 地を蹴り、刃を振り上げる。


 だが――


 「グオオオオアアアアアッ!!」


 突如、天地を裂くような咆哮が響いた。


 至近でその咆哮を受けたベルクの動きが、わずかに止まる。


 その瞬間だった。


 ブラッドゴブリンの巨大な剣が、空気を裂いて振るわれた。


 「ぐっ……!」


 剣と剣が交錯する。しかし、質量が違いすぎた。


 剣はへし折れ、ベルクの身体が跳ね飛び、地面を転がる。


 「ベルクさん!!」


 仲間の叫びが木霊する中、マルダが飛び込んだ。


 「これでっ……!」


 素早く回り込み、短剣を首筋に突き立てる。


 が、皮膚は厚く、刃は深く入らない。


 しかも短剣が引き抜けない。


 「――しまっ……」


 次の瞬間、ブラッドゴブリンが振り返り、マルダの頭を掴んだ。


 「やめろッ!」


 誰かの声も届かぬうちに、巨体がマルダを地に叩きつけた。


 血飛沫が、地に咲く。


 「……っ!」


 クロスは走り出していた。


 このままでは、また仲間が死ぬ。


 「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」


 剣を携えたまま、地を蹴り、魔法を放つ。


 氷弾が一直線に飛び、ブラッドゴブリンの右腕に命中。

 瞬く間に右腕が凍結し、武器を握ったまま動きが止まる。


 間髪入れず、クロスは二発目を放った。


 「――《フロストショット》!」


 今度は左脚。魔法が直撃し、脚が白く染まるように凍りついた。


 右腕と左脚を凍結され、ブラッドゴブリンの動きが鈍る。


 (やった……!)


 しかし、その直後。


 ブラッドゴブリンは怒声と共に左腕を振るい、リオンとクロスを薙ぎ払おうと暴れ始めた。


 「ぐっ……止まらないのか……!」


 クロスは歯を食いしばる。


 《フロストショット》は、もう撃てない。


 魔力は、使い果たした。


 (まだ、終わっていない。……でも。ここで終わらせないと、皆が――)


 すでに両脚は重く、肩も痛む。それでも、剣を握る手を緩めなかった。


 今、ブラッドゴブリンと対峙しているのは、もはやクロスとリオンの二人だけだった。


 「クロス! 下がれ!」


 リオンが叫ぶが、クロスは首を振る。


 「……僕は、生きるって、決めたから……!」


 静かに、覚悟の言葉を呟いた。


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