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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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氷の一閃

 戦場に、ひときわ強い熱が弾けた。


 火球がうなりを上げ、空気を焦がしながら一直線に飛ぶ。


 その直前、ゼルスは杖を振り、土塊を投げてゴブリンシャーマンの詠唱を妨害しようとしたが――僅かに遅かった。


 ゴブリンシャーマンが放った火球は、真正面からゼルスの胸元を撃ち抜いた。


 熱と衝撃にゼルスの体が宙を舞い、次の瞬間、泥にまみれた地面へ叩きつけられる。


 焦げた衣が風に煽られ、白く濁った視線が空を仰いだまま、動かなくなる。


戦場に、焦げた空気が流れた。


 「――ゼルス!!」


 その光景を目の当たりにしたハンスの叫び声に、ガイルが振り返った。


 その隙をゴブリンシャーマンの傍に控えていた護衛のゴブリンは見逃さず、低く唸りながらガイルへと飛びかかっていた。


 ガイルが振るおうとした槍は間に合わない。鋭い剣が、脇腹を深々と突き刺した。


「ッ……が、ぁあッ!」


 ガイルが血を噴き、地面に崩れる。赤黒い血が泥に滲んで広がった。


 それを見たゴブリンシャーマンは、甲高く金切り声のような咆哮をあげる。言葉はない。ただの獣のような、勝利の咆哮。


 その瞬間、風が変わった。


クロスはゴブリンシャーマンに向けて走りながら、魔法を詠唱する。


 空気が凍てつき、冷気が走る。


「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――」


 低く、だが明瞭に響いた詠唱の声。


 ――《フロストショット》!!


 クロスの左手から放たれた氷の矢が、白い光を纏って空を裂いた。


 ゴブリンシャーマンの胸元を撃ち抜いたその一撃は、肉を凍らる。咆哮は止まり、声を発することさえできず、ゴブリンシャーマンは膝を突いた。口元からは冷気とともに血が流れ、まともに立っていることすらできていない。


 ――そして二射目。


 狙いはガイルを刺した護衛のゴブリン。


 氷の矢が直撃し、ゴブリンの体は内側から凍りつき、膝から崩れ落ちる。


 その間も、ゴブリンシャーマンの護衛として残っていた最後の一体が、ガイルに止めを刺そうと動いていた。


 だが、崩れた体を無理やり起こしたガイルが、刺された傷も構わず、最後の気力で槍を突き出す。


「まだだ……死んでたまるかよッ!!」


 刺突は深くは入らなかったが、護衛の動きを確かに止めた。


 そこへ、風を切る疾走。


「どきなさいッ!」


 剣を携えたナタリーが飛び込み、一閃。鋭く振り下ろされた刃がゴブリンの首を断ち切る。


 血飛沫が宙を舞い、残る敵は――虫の息のゴブリンシャーマンのみとなった。


ゴブリンシャーマンは膝をつき、吐血しながらもなお生きていた。その目はクロスを見据え、狂気に染まっていた。


 ナタリーはそのままゴブリンシャーマンの前に走り、大剣を振り下ろした。


 ――ゴブリンシャーマン、討伐。


ゴブリンシャーマンにとどめを刺したナタリー教官が大きな声で叫んだ。


「ハナ、ガイルを!」


「はいっ!」


 後方に控えていたハナが急ぎ駆け寄り、ガイルの傷に手を翳す。


「……癒えよ、命の糸よ……!」


 淡い光が手元から広がり、ガイルの傷が少しずつ塞がっていく。


 まだ意識ははっきりしないが、出血は止まった。


「クロス、助かったわ。ゴブリンシャーマンへの攻撃、あれがなければ危なかった」


 ナタリーはフロストショットの異常な威力に畏れを抱くが、その感情を押し殺して短く礼を告げる。クロスは無言で頷き、剣を構えたまま戦場を見渡した。


 彼はガイルに駆け寄ることも、声をかけることもなかった。


 今、すべきことは別にある。


「……まだ、終わっていない」


 戦場の北側では、ブラッドゴブリンがまだ健在だ。


 一方で、ハンスとセルスは最後の矢を放ち、空の矢筒を背に、腰の鉈剣を引き抜いた。


「矢、切れた。セルス、行くぞ!」


「あぁ、やるしかねぇな……!」


 二人の狩人が前線に走る。近接戦は得意ではない。それでも、仲間を守るために、武器を取って駆け出した。


 泥と血と叫びが交錯する戦場で――クロスは、残りの《力》を握りしめていた。


(あと、撃てるのは……2発)


 残るフロストショットをどう使うか。それが、戦局を左右する。

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