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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
42/206

戦局の傾き

 火の粉が散る――。


 シャーマンが振りかざした杖の先から放たれた火球が、村の北側に設置していた罠の一角を直撃した。木製の柵が燃え上がり、防壁の一部が黒焦げになって崩れる。


「くそっ、あのシャーマン……!」


 セルスが歯噛みしながら、立て続けに弓を引く。彼の弦音とともに、隣のハンスも正確な射撃でゴブリンの頭を射抜いた。


「まだ距離はある。こっちの射程内で抑えきれる!」


 そう叫ぶセルスだったが、確実に戦局には陰りが見え始めていた。


 ゴブリンたちは沼地に足を取られながら、氷の罠で滑り、冒険者たちの剣や槍に次々と倒れていた。それでも、彼らは数の暴力を持って押し寄せてくる。


「ッらあっ!」


フリーダの大剣が振り下ろされ、氷の上に倒れたゴブリンの胸を一撃で潰す。

その横で、ロイが盾でゴブリンの突撃を弾き、斧で首を刈った。


「ミト、前に出るな! 後ろにクロスがついてる!」


ロイが警告する。ミトは一瞬躊躇するも、すぐに下がりつつ敵の間合いを伺った。


「ありがとう、ロイ……助かった!」


「気を抜くなよ。こいつら、妙にタフになってやがる」


クロスもまた剣を振るい続けていた。

ゴブリンの腹部を裂き、倒れた個体にもう一太刀を加えて息の根を止める。


(おかしい……)


斬撃の感触が違う。斬ったはずの筋肉が厚く、骨が硬い。

一撃で倒れるはずのゴブリンが、こちらを睨み返してくる。


「ギギャアアアッ!」


獰猛な叫びとともに、別のゴブリンが飛びかかってきた。


「っ!」


クロスは半歩退いて剣を振り、相手の首筋に斬撃を浴びせた。

斬った感触はあったが、ゴブリンは呻きながらも踏みとどまる。


(シャーマンのバフのせいか……倒すのに、時間がかかりすぎる!)


その遅れは、すぐに前線に影響を及ぼした。

ミトの左腕が裂かれ、サラが駆け寄って治癒魔法を放つ。

ラグナは側面から迫ってきた敵を短剣で捌きながら、水魔法で足止めに徹している。


「フリーダ、援護を頼む!」


「了解!」


フリーダの大剣がラグナの周囲にいるゴブリンを一掃する。


「回復に時間がかかる! 援護、もっと早くして!」


サラが怒鳴った。普段は温厚な彼女の声が、戦場の緊迫をさらに浮き彫りにする。


負傷者が出始め、前線の押し返しが僅かに鈍る。


「シャーマンの支援魔法だ。筋力強化と耐性上昇だな。あれを優先的に潰さないと、持たないぞ……」


 ラグナが呟きながら、水魔法で盾となるアクアシールドを形成していく。


 一方で――。


「ダメだ、あのシャーマンに近づけない!」


 ナタリーが歯を食いしばって声を上げた。彼女の目の前には、まるで守護者のように立ち塞がる三体のゴブリン。その目は異様に光り、武器を持つ手は震えてすらいなかった。


 ナタリーは剣を構える。


「ゼルス、ハンス、お願い、シャーマンの魔法を止めて!」


「分かってる……が、あの三体、ただのゴブリンじゃないな。強化されてやがる」


 ハンスが矢を放つが、二本は盾で弾かれ、一本はかろうじてゴブリンの肩を射抜いた。だが、それでも彼は倒れなかった。


 ゼルスが地面に手を当て、ゴブリンの足元に杭のような土を突き出す。一本が足を貫いたが、それでも叫び一つ上げず、突進してきた。


「来るぞ!」


 ナタリーが剣を振るい、なんとか迎撃する。


 その間にも、シャーマンは新たな火球を唱えている。


 ――まずい、このままじゃ……。


 クロスは村の中心部近く、滑りやすい足場の中で動き回りながら、剣を振るっていた。だが、彼の脳裏には別の焦りが渦巻いていた。


(《アイスタッチ》で魔力を半分使った……。このままじゃ《フロストショット》はせいぜい、あと四発が限度だ)


 だからこそ、使いどころを見極めねばならない。


 ゴブリンたちは確かに足場を奪われ、動きが鈍っていた。だが、シャーマンの魔法で強化された今、その場で仕留め損ねると一気に反撃される可能性がある。


「クロス、そっちはどうだ!?」


 ミトの叫び声に、クロスは振り返って頷いた。


「こっちはまだ大丈夫。でも……このままじゃ、いずれ崩れる」


 クロスは剣を振るう手を止めず言った。


 冷静さを保っているつもりだった。だが、戦場全体を見渡せば、じわじわと冒険者たちの消耗が見て取れる。



ベルクたちの戦線は、さらに過酷だった。

ブラッドゴブリン。筋骨隆々とした赤い体躯、何よりその咆哮は、音だけで冒険者の士気を削る。


「こいつ……こんなに強いのかよ……!」


ベルクが大剣で受けた衝撃に、膝をつく。

リオンが槍を回し、ブラッドゴブリンの腕に刺突を加えるも、肉に刺さっただけで止まり、怒りに満ちた腕に吹き飛ばされる。


「がっ……!」


「リオン!」


マルダが飛び込むようにしてブラッドゴブリンの腹部に短剣を突き立てた。

だが、筋肉に弾かれたかのように刃が止まる。


「こいつ……皮膚まで厚すぎる!」


「ベルク、どうする……?」


「……今は時間を稼ぐしかねえ」


ブラッドゴブリンはその場で吠えた。

その声が再び戦場に響き渡る。


「グアアアアアアアアア!」


その咆哮に、またしてもゴブリンたちの動きが活性化する。

シャーマンのバフと、ブラッドゴブリンの鼓舞。

戦場の空気が一気に敵優位へと傾いていく。


 冒険者たちの戦列は、未だ崩れてはいない。


 だが確実に、その歯車に狂いが生じつつあった。


 クロスは剣を振るいながらも、心の中で決意する。


(……撃ちどころを、見極める)


 氷の矢が空を裂くとき、それは戦局を左右する。


 その時を、ただ待つのではなく――自分の目で、引き寄せるのだ。

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