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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
41/167

黒き森から来たるもの

森の奥に、奇妙な静けさがあった。

空気が張りつめ、虫の声さえも消えたその瞬間、リオンの叫びが空を切った。


「来るぞッ! 構えろ!」


その声と同時に、木々の間から影が次々と現れた。

ゴブリン――目を爛々と光らせ、棍棒や粗雑な刃物を振り上げ、数十体が獣のような速さで駆けてくる。


「沼地へ入ったぞ! 狙えッ!」


ハンスが叫び、セルスと共に弓を構える。風を切って放たれた矢が、ぬかるみに足を取られたゴブリンの肩、胸、喉を貫いた。

一体、また一体と、転倒し、声を上げる間もなく沈んでいく。


「さすが、狩人組……!」


クロスはその一部始終を目にしていた。沼地の地形と弓の連携は、狙い通りに機能している。


その沼地化した間では、氷の罠が効果を発揮していた。クロスが直前に張った氷の床――見えづらく、踏めば確実に滑る仕掛け。

それに足を取られたゴブリンが、盛大に転倒する。


「今だ!」


ミトが叫び、鋭く踏み込みながら転んだゴブリンの首を断ち切った。

フリーダの大剣が横薙ぎに振るわれ、氷床の上で立ち上がろうとした敵を一掃する。


「動きが鈍いわね。こんな奴ら、私一人でも十分よ!」


ミトが不敵に笑う。


「調子に乗るな、まだ序盤だ」


ラグナが冷静に言い返しながら、滑ったゴブリンを短剣で正確に突き刺す。


クロスは氷の罠の前で、剣を構えて立っていた。目の前に転倒したゴブリンに向けて踏み込み、脇腹を突く。


(……魔法を使うまでもない。今は剣で十分対応できる)


何体かの敵を倒しながらも、クロスの意識は常に周囲の戦況を探っていた。冒険者たちは連携を取りつつ、戦線を押し上げていく。

開戦直後の戦況は、はっきりと“優位”に傾いていた。


しかし――その雰囲気が一変したのは、突如として森の奥から、異様な気配が満ちた瞬間だった。


「……ッ、何だ……あれは……」


ガイルの声に、全員が一斉に注目する。


森の影から、赤黒い皮膚の大柄なゴブリンが現れた。

通常のゴブリンの倍はあろうかという体躯、筋肉質な腕、鋭く光る爪。

そして何より、その眼が獲物を見下ろす捕食者の光を宿していた。


「……ブラッドゴブリン……!」


ナタリーが叫んだ。


ただ強いだけの存在ではない。統率力を持ち、知能も高く、時に“指揮官”として群れを導く凶悪な上位種。


「シャーマンもいるッ!」


リオンの叫びに、皆の視線が再び森へと向く。

続いて現れたのは、背中に骨の装飾を付けた瘦せたゴブリン――魔法を使う、ゴブリンシャーマンだった。


その直後、シャーマンは杖を振り上げ、低く唸るような声で詠唱を始めた。


「グォル・ミグラ・ラザ」


閃光のように赤く輝いた魔力が、一直線に放たれた。


「避けろッ!」


ベルクが叫ぶと同時に、炎の球が前衛のミトたちのすぐ近くに炸裂。

地面がえぐれ、炎が巻き上がり、熱波が襲いかかった。


「くっ……!」


ミトが顔を覆い、少し後退する。

しかし、ロイが腕に軽い火傷を負ってしまった。彼は直ぐ治療薬を腕に半分かけ、残りを飲み干した。腕の火傷はすぐに修復されるが、陣形は一瞬、崩れかけた。


「支援魔法じゃない、攻撃もしてくるタイプか……!」


リオンが息を呑む。


さらにシャーマンは、両手を高く掲げ、別の呪文を唱え始めた。


「グリル・ブァ=ドゥロ」


淡く輝く赤い魔力が、周囲のゴブリンたちに降り注いだ。

それはまるで、戦士への祝福のような煌めき――


「バフ魔法!? 動きが……!」


ラグナが警告を発するまでもなく、ゴブリンたちの動きが一変した。


「ギギギャアア!」


まるで狂戦士のように、彼らは吠えながら突進してくる。

動きが速く、重く、ただでさえ厄介だったゴブリンたちが、バフによって“強化された敵兵”へと変貌を遂げたのだ。


「陣形を維持しろ! 崩されるな!」

ナタリーが怒鳴る。


「フリーダ、クロス、ロイ、援護に回れ!」


「了解!」


フリーダが大剣を構え直し、突進してくるゴブリンを一撃で叩き伏せた。


クロスも剣を構え、迫りくる敵に立ち向かう。


「フッ!」


ゴブリンの動きをよく見て低く腰を落とし、踏み込み斜めに剣を振る。氷で滑ってバランスを崩したゴブリンの腹部に一閃。


血が飛び、地面に転がる。だが、倒れてもなお立ち上がろうとするゴブリンの目には、燃えるような狂気が宿っていた。


(……バフで耐久力も上がってる?)


そう感じさせるほど、ゴブリンたちは不屈だった。


「……シャーマンの魔法で動きも力も強化されてる。まずいな……」


ゼルスが低く呟きながら、土魔法でゴブリンの足元を隆起させ、動きを封じる。


そんな冒険者たちの戸惑いを見て、

ブラッドゴブリンが雄叫びを上げる。


「ギィエェエエェエアアアアアァアア!!」


その咆哮は鼓膜を震わせ、地を這うような響きと共に、ゴブリンたち全体に“命令”を与えたようだった。


さっきまで無秩序に動いていたゴブリンたちが、整然とした隊列に近い形で動き始める。


「あれが“指揮”……!」


クロスは唾を飲み込む。


さっきまでの“雑兵の群れ”が、“軍勢”に変貌した。

恐るべきは、ブラッドゴブリンの指揮能力と、シャーマンの魔法による補助。

まるで用意された布陣のように、ゴブリンたちはこちらの陣形を崩しにかかる動きを見せ始めた。


「クロス、ミト、フリーダ、ロイはゴブリンの数を減らして!」


ナタリーの指示が響く。


「ベルク、リオン、マルダ! ブラッドゴブリンを引き受けて!」


「了解!」


「任せろ!」


ベルクは鋭く返事をし、大剣を振り上げて前に出た。リオンは槍を構え、背筋を伸ばす。マルダは既に獲物を狩る目をしていた。


「シャーマンは私とガイル、ゼルスでやる!」


「お任せください」


「了解!」


クロスは剣を構え直し、視線を前方の氷上に転倒しているゴブリンへ戻す。


(まだ、俺が魔法を使う時じゃない。今は剣で、仲間の背中を守るんだ)


矢の放たれる音、剣戟の音、そして……静かに訪れる“嵐”の気配。


戦いの本番は、まだ始まったばかりだった。


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