力の意味
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風が、冷たい。
空気が張り詰め、遠く森の奥で聞こえる獣の咆哮が、やけに近く感じられる。
村の空は、夜の帳にすっかり覆われていた。
クロスは、一人防壁の影に腰を下ろし、剣を静かに膝の上に置いていた。
(……この世界に来てから、どれくらい経っただろう)
初めて魔物を見たときの恐怖と戸惑い。
ベルダ村でようやく安息を得たのも束の間、今こうして再び、死と隣り合わせの夜を迎えている。
けれど、クロスは――この世界に来る前から、ずっと戦っていた。
「……地球にいた時から、俺は剣を学んでいた。」
道場に通うようになってから10年になった。
“力とは何か”。
けれど、答えは得られなかった。
そして、ある日突然――彼はこの世界へと呼び寄せられた。
あの白い空間で、声だけが語りかけた。
“お前には力を与える。それが、お前がここに在る意味だ”と。
(……あれは、神だったのか)
神の名も姿も、何一つ分からない。
だが確かに、何か大いなる存在が自分をここへ導いたことだけは事実だった。
そして、その存在は――明らかにクロスに「力」を与えていた。
ただ、今になって思う。
この世界は、地球より遥かに“力”が直結する世界だ。
魔物は人を食らい、人は戦えなければ死ぬ。
そして、他者を守れる力がなければ――誰かの命は容易く消える。
「……力が無ければ、生きられない。それがこの世界の現実か」
だから、魔法を与えられたのかもしれない。
自分に与えられた魔力を現代の知識を応用して、強化した。
そして今、彼が扱える魔法は2つだけ。
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《アイスタッチ》
‐ 詠唱:「冷たき精よ、我が手に宿り、触れるものを凍てつかせよ――《アイスタッチ》」
‐ 範囲:接触対象から最大2mまでの表面伝播
‐ 効果:急速凍結(約−40℃)、生物なら筋肉と神経系を瞬時に凍結させ、武器や装甲は2秒接触で凍結破砕が可能
‐ 使用回数:20回以上(低コスト魔法)
《フロストショット》
‐ 詠唱:「凍てつく雫よ、我が敵を撃て――《フロストショット》!」
‐ 射程:最大20mの直線射撃、貫通力あり(通常装甲程度なら貫通)
‐ 効果:命中点を中心に半径30cm以内を瞬時に凍結
‐ 使用回数:10回前後(強化版のため魔力消費は高め)
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これらの魔法は、間違いなくこの世界の“常識”を逸脱している。
訓練中も、他の魔法使いたちの魔法の威力に違和感を覚えるほどだ。
だからこそ、使えば使うほど――自分が異質な存在だと、気づかれる可能性は高い。
疑われるだろう。
恐れられるかもしれない。
最悪、排除の対象になるかもしれない。
だからこれまで人前では決して使用せず、訓練を続けてきた。
けれど、それでもクロスは、心の中でこう答えた。
(それでも……俺は、この力を使う)
死ぬわけにはいかない。
生きたい。
守りたい。
ただ、それだけのために。
「力を振るうことに、迷いはない。どんな結果になっても、生きることを選ぶ。俺は――この世界で、生き残ってみせる」
そう呟いたとき、夜空を雲が流れ、星の一部が顔をのぞかせた。
不安はある。
恐怖も、消えはしない。
でもそれ以上に――今の自分には、“覚悟”がある。
クロスは剣の柄に手をかけ、ゆっくりと立ち上がった。
静かな夜が、嵐の前の静けさであることを、彼の心が告げていた。
明日、この村がどうなっているかは誰にも分からない。
けれど、彼は生き延びるために――そして、力の意味を知るために、戦う覚悟を決めた。




