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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
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アミナ村へ

 夜明け前の薄闇の中、ベルダ村北門に十一人の冒険者が集っていた。これからアミナ村へ向かう救援部隊。全員が簡易な旅支度を整え、出発の号令を待っている。


 ギルドマスター・ドルトンが全体に告げた。


「今日中にアミナ村へ到着しろ。戦闘は最小限で構わん、目的は防衛と救援だ。無理な戦闘は避けろ」


 四人一組の班に編成された部隊。クロスはナタリー教官率いる班に配属された。班の構成は、ナタリーを筆頭に、7級の槍使いガイル、8級の剣士ミト、そして10級のクロス。


「いいか、基本は隊列を乱さず移動優先。不用意に森へ逸れるな。危険を感じたら即座に報告しろ」


 ナタリーの落ち着いた声に、クロスは背筋を伸ばして頷いた。見慣れた村での教官の姿とは違う。戦場に立つ冒険者の顔だ。


「それじゃあ、出発だ。行くぞ!」



 朝日が昇り始めたころ、一行は森の中の獣道へと進入した。前日の雨でぬかるんだ道を、慎重に進む。


 正午前、最初の戦闘が訪れる。潅木の間から現れたのは、毒針を持つ虫型魔物スティンガービーの群れ。数は五体。


「スティンガービー、五体接近!」


 ナタリーが鋭く叫ぶ。


「ミト、ガイルは正面から。クロスは右側を回り込んで。私が援護する!」


「了解!」


 クロスは素早く右へ動き、剣を構えた。


 正面の蜂が突っ込んでくる。ミトが剣で牽制しつつ、一体を斬り払う。すかさずガイルの槍が、空中の一体を串刺しにした。


 一体がクロスのほうへ迫ってくる。羽音を聞きながら、冷静に剣を構える。


(速いけど、動きは直線だ……)


 蜂が突進する瞬間、クロスは一歩踏み込み、剣を横薙ぎに振るった。金属音のような硬質な衝撃とともに、胴体を斬り裂く。


 斬った感触が腕に残る。振動を振り払うように剣を引くと、蜂は地に堕ち、羽ばたきを止めた。


 残る2体もガイルの槍とナタリーの剣によって仕留められ、短い戦闘は終わった


「クロス、よく見ていたな。今のはいい斬り方だ」


 ガイルの声に、クロスは少しだけ頬を緩めた。


「はい……なんとか、落ち着いて対処できました」


 クロスは短く答えながら、内心では剣の感触を思い返していた。自分の中に、少しずつ積み上がる「経験」が確かにあった。



 午後、太陽が傾き始めた頃。二度目の戦闘は森を抜けた開けた草地で起こった。


 現れたのは《ラットマン》六体。身軽な動きで左右から包囲を仕掛けてくる。


「来たぞ、気を抜くな!」


 ナタリーの声に反応し、班の隊列が展開される。


 クロスは剣を構え、斜めから突進してくる一体を相手取る。刺突を避け、右から斬りかかるが、相手もすばやく反応する。刃がかすめ、甲高い金属音とともに敵の短剣で弾かれる。


 ガイルが横から突撃してきた別のラットマンを迎撃し、体ごと押し倒して槍で仕留める。ミトも背後から回り込んで敵を一体倒し、ナタリーは小さく詠唱し、土魔法で足元を崩して一体を無力化する。


 クロスも正面の敵に踏み込み、喉元を突いて一撃で仕留めた。


 戦闘は数分で終わったが、呼吸を整えるまでしばらく言葉が出なかった。


 その時、ナタリーが呟くように言った。


「……ちょっと多いわね、出没する魔物の数が。ベルダ村周辺の間引きは順調なはずなんだけど……」


 彼女の目が森の奥を見つめる。緊張と疑念がその瞳に浮かんでいた。



 夕暮れの光が差し込むころ、ついにアミナ村が視界に入る。小高い丘を越えた先、畑と小さな木造の建物が並ぶ村。だが、その景色にはどこか不穏な空気が漂っていた。


 村人たちが屋内にこもり、道に人の気配はない。明らかに、恐怖と緊張が村を覆っている。


「雰囲気が重いな」


 ガイルが唸るように言った。


 門に近づくと、先行していた班が待ち構えていて、クロスたちが最後の到着だった。

全三班が村の入り口に集まり、簡単な点呼の後、防衛に関する打ち合わせが始まった。


「先行していたベルクさんたちは、すでに偵察に出てるってさ。村長さんの話によると、今のところ魔物の姿は見えていないらしいけど、どこかに潜んでる可能性がある」


 8級の戦士ロイがそう説明した。


水魔法の使い手のラグナが、


「まずは村の外周の見回りと、戦闘時に村人を避難させる建物の確認が先だな」


「夜襲も想定した方がいいわね。篝火を焚く場所、交代の見張り番も決めておきましょう」


 ナタリーの指摘に、他の冒険者たちも頷く。


 クロスはその様子を見つめながら、村の重たい空気を改めて感じていた。


(……恐怖が、村全体に染みついてる)


 いつものベルダ村とは違う。小さな子供の声も、穏やかな笑い声も聞こえない。ここには「明日が来る」という確信すら揺らいでいるような、不安と焦燥が漂っていた。


 その空気に、クロスは思わず息を詰める。


(俺に、何ができる……?)


 問いはまだ、心の中に置かれたまま。だが剣を握る指は、確かに前へ進もうとしていた。


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