決意
クロスは迷っていた。
正直、それほどの魔物を相手に戦うことを考えると怖かった。
それに、自分より遥かに強い仲間がいる中、自分が足を引っ張るかもしれない。
だが、それでも。
(……俺は、何のために剣を取った?)
地球にいた頃は強くなりたいと思って鍛錬してきた。しかし、異世界に来てからは、生きるために毎日剣と魔法を学んできた。そして今は、命を賭ける者たちの背中を見て、力とは何のためにあるのか、その答えへのヒントがあると思った。
「俺は……行きます」
クロスの声は震えていたが、はっきりとしていた。
「助けを求めてる人がいるなら……理由としては、それで十分だと思うんです」
その言葉を口にした瞬間、クロスは心の中でそっと誓う。
(この戦いで、現代の知識を活かして強化した《アイスタッチ》と《フロストショット》を使う事になるだろう。その時は迷わない、誰かを守るために)
力を振るう覚悟は、すでに出来ていた。
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翌朝、霧が立ちこめる中、偵察部隊の三人が村を出発する。
その先頭に立つのは剣術教官・ベルク。共に行動するのは、6級冒険者のリオンとマルダだ。
「お前ら、油断するなよ。今回は情報収集が第一だ。無理に戦うな」
ベルクが低く告げると、リオンが軽く頷き、マルダがにやりと笑った。
「わかってますって。逃げ足だけは鍛えてますから」
村の者たちが見守る中、三人は無言で歩き出した。彼らの背中が朝霧に消えていく。
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西門では、カインとアシュレイ一行が出発の準備をしていた。
背負い袋の紐を締めながら、カインが振り返る。
「……クロス。お前もいよいよ本格参戦だな。くれぐれも、死ぬなよ」
「はい。カインこそ、気をつけてください」
クロスが言うと、カインはふっと笑う。
「俺は報告役だからな。どこまでも逃げる準備はしてる。安心しろ」
隣で馬車の積み込みを見ていたアシュレイが一歩前に出る。
「しかしまあ……この村の飯は本当に驚いたよ。領都の貴族だって知らない味だ。あれだけでも、守る為に全力で知らせる価値がある」
アシュレイの目に真剣な色が宿っていた。
「だから領都に必ず伝える。この村を守るために」
その言葉にクロスは深く頭を下げた。
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ギルドの作戦準備は慌ただしく進んでいた。
地図と書類を並べた机を前に、ギルドマスター・ドルトンとゴルが静かに言葉を交わしている。
「ドルトン、本当にアミナ村の防衛は――」
「ああ。可能なら守るべきだが……状況が悪ければ、ベルクにはベルダ村への撤退を指示している」
ドルトンの目は厳しく、だがどこか悲しげでもあった。
「それが……一番の被害を抑える手段だ」
「……了解した。俺からも、ナタリーたちに通達しておこう」
戦うための準備と、守るための覚悟。そのどちらも、このギルドは手放さなかった。
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夕刻。広場では救援部隊の出発に備え、最後の点検と配給が行われていた。
クロスは腰に剣を下げながら、鍛錬場で一人、素振りを繰り返していた。
(人を助けるための力……それが、本当に「強さ」なんだとしたら)
初めて、自分の剣に宿る意味を見つけた気がした。




