その名を呼ばれて
ギルドの大広間に、ベルダ村の冒険者たち全員が集められていた。
ギルドマスター・ドルトンの声が静かに、しかし確かに場を制した。
「状況は緊迫している。アミナ村周辺で確認された魔物の数は五十体を超える可能性がある。上位種が混じっている可能性も否定できん」
冒険者たちの間にどよめきが走る。
ドルトンは静かに話を続けた。
「商人のアシュレイ一行には、すでに領都へ情報を届けてもらうよう依頼した。だが、ギルドからも正式な報告を届ける必要がある。カイン、お前に任せたい」
「了解です」
金髪の青年――カインは一歩前に出て、静かに頷いた。
ドルトンは頷く。
「頼んだ、カイン」
ドルトンは、再び冒険者たちに向けて話し始めた。
「アミナ村の住民ルガンから得た情報と過去にわしの経験から推測するに……魔物の群れは、二、三日中に動き出す可能性が高い。残念ながら町からの応援は間に合わんだろう」
その声に、冒険者たちは静かに息を呑んだ。
「問題は、これほどの数の魔物が、しっかり間引きが行われているベルダ村近隣で発生する事自体が異常だという点だ。他国から流れてきたという可能性も捨てきれない……」
冷たい空気が、場を包み込む。
「この群れがアミナ村を襲えば、次に狙われるのはここベルダ村だ。よって、ギルドとして偵察および救援部隊を組織する」
ドルトンは声を強めた。
「偵察には、ベルク教官と6級冒険者のリオン、マルダの両名を派遣する」
冒険者たちの間で「なら安心だ」という安堵のささやきが広がる。
ドルトンは続けて名前を呼び上げた。
「そして、現時点でギルドが動かせる主戦力として、以下の11名を選出する。条件は――戦闘経験が豊富であり、独身であるものを優先した。そして、申し訳ないが治癒魔法と水か土の魔法が使える者を選抜した」
場が静まり返る中、名前が読み上げられていく。
「ガイル、ミト、ハンス、ラグナ、サラ、ゼルス、ロイ、フリーダ、セルス、ハナ……そして、クロス」
再びざわめきが走った。
「本気か……?」
「クロス? まだ10級だろう!?」
「危険すぎる。下手すれば足手まといに……」
驚きと疑念が入り混じる視線が、彼に集まる。
それでも、ドルトンは迷いなく続けた。
「確かに10級だが、彼は初級とはいえ氷系魔法を扱える。魔法はこのような局面で、戦況を一変させる可能性を持つ。特に、氷や水の魔法は、使い方次第では防衛に大いに役立つ」
しばらく沈黙が流れたのち、ドルトンの視線がクロスに向けられた。
「ただし、10級なので本人の意思を尊重する。クロス、お前が参加を拒否するなら、それも尊重しよう。その場合はベルダ村の防衛部隊に回す。――どうする?」
静寂の中、全員の視線が、クロスへと注がれる。
彼の選択が、これからの未来を左右する――そう感じさせるほど、空気は重く張り詰めていた。




