冒険者としての責任
「……お前はもう“仮”じゃない。これからは一人前の冒険者として、責任を持って行動しろ」
ギルド訓練場の片隅で、教官グレイの落ち着いた声が響いた。
正式登録から数日。雑用の合間を縫って剣の訓練に励んでいたクロスは、訓練の後にこうして呼び止められていた。
「これまでみたいに荷物持ちだけで済むことは少なくなる。特に、間引きの依頼ではお前も戦力として見られることになる」
「……はい」
グレイの視線は厳しいが、どこか誇らしげでもあった。
「お前が努力してきたのはよくわかってる。だが、それはあくまで“努力中”だったから許された話だ。これからは、お前が倒れれば任務が失敗することもある」
グレイは腰に手を当て、真剣なまなざしで続ける。
「命を懸ける覚悟をしろ。仲間の命も、背負うことになる」
その言葉の重みに、クロスは静かにうなずいた。
(俺は、今まで訓練の延長で戦ってたのかもしれない……)
だがこれからは違う。仲間と共に戦う。自分の判断が仲間の生死を左右する場面も出てくるのだ。
「……次の間引きは二日後。《ラットマン》の群れが対象だ。お前は前衛に立って、敵の数を抑える役目だ」
「わかりました」
「ミトとガイルが一緒に行く。指示には従え。だが遠慮はするな」
⸻
訓練後、クロスの前にガイルがふいに現れた。
「……正式登録か」
いつものように無表情で、しかしどこかほんのわずかに表情が緩んでいる気もする。
「はい……よろしくお願いします、ガイルさん」
「名前でいい」
「え?」
「呼び方だ。先輩とか“さん”とか……いらん」
ガイルはそれだけを言って歩いて行った。
「……お前が戦力に入るなら、無理はするな。役目だけ果たせばいい」
「……はい」
その無駄のない言葉の中に、クロスは確かに信頼のようなものを感じた。
(……俺は、本当に冒険者の仲間入りをしたんだ)
⸻
その夜、風見草亭の部屋で剣の手入れをしながら、クロスは静かに剣の柄を握りしめた。
これからは、自分の行動一つで、仲間を救うことも、危険にさらすこともある。
正式登録。それはただの区切りではなく、「責任を背負う者」への第一歩だった。
そして二日後。
クロスはついに、初めて“戦力”として出撃する間引き任務へと向かう──。




