次なる任務と村の魔物たち
薬草収集の任務に出るようになって、もうすぐ一ヶ月が経つ。
この一ヶ月で、クロスは5度、先輩冒険者のカイルやエルに同行して、村の外で薬草を集める任務をこなしてきた。初回以外は運よく魔物との遭遇はなかったが、先輩たちの警戒や判断を間近で見て学ぶことは多かった。
剣と魔法の訓練も続けている。
特に《アイスタッチ》は、スライムのような物理攻撃が通りづらい魔物への有効性を見込んで研究を重ねていた。だがその反面、接触しないと効果がないため、実戦での使用は難しく感じていたので、攻撃手段としては一旦保留することにした。
そんなある日、いつものようにギルドで報告を済ませた後、受付のリサから声をかけられた。
「クロスくん、ゴルさんが話があるって。休憩室で待ってるから行ってみて。」
休憩室へ向かうと、ギルド職員のゴルが腕を組んで待っていた。
短くうなずいた後、彼は静かに切り出した。
「薬草収集の任務、よく頑張ってるな。報告も真面目だし、評価は上々だ。……そろそろ次の仕事を任せようと思う。」
クロスの背筋がぴんと伸びる。
「次の……仕事?」
「魔物の間引きに同行して、討伐した後の素材を回収する任務だ。戦闘は先輩たちが行う。お前には荷物持ちと素材運搬が主な仕事になるが、戦闘現場に出る以上、それなりの覚悟も必要になる。できるか?」
「……はい。挑戦させてください!」
クロスの返事を聞くと、ゴルの顔にわずかに笑みが浮かんだ。
「いい返事だ。ただし、先輩の指示には絶対に従うこと。独断行動は禁止だ。これは訓練じゃない、実戦だ。いいな?」
「はい!」
その返事を聞いたゴルは、近くの部屋にいた教官のグレイを呼び寄せた。
「おう、クロス。お前さんも、ついにそこまで来たか。いいか、間引きってのはただ魔物を倒すだけじゃねえ。村を守るための“制御”だ。倒しすぎても生態系が乱れるし、放っておいても人が襲われる。だから対象は絞ってある」
グレイは、ゆっくりと説明していく。
「まず一体目、スライム。これはお前も知ってるな。単体なら雑魚だが、数が多いと厄介だ」
「はい。囲まれると逃げ場がなくなります」
「次にゴブリン。こいつは小型で、人間並みに道具を使う。複数で動くし、子供だと思って油断するとやられるぞ」
「三体目はラットマン。巨大ネズミみたいな魔物だ。動きが速く、ちょこまかと逃げ回る上に集団行動もする。神経を削られるタイプだな」
「四体目はモスリザード。苔をまとった小型のトカゲで、擬態が得意だ。草や岩に紛れて動かないこともある。気づかず踏みつけて、足を噛まれた奴もいるくらいだ」
クロスは真剣な表情でメモを取りながら、頷いた。
「五体目はホローバグ。甲殻を持った虫型魔物だ。動きは遅いが、防御が硬くて斬撃が通りにくい。叩くようにして倒すのが基本だな」
一通り説明を終えたグレイは、ふと目を細めて言った。
「ちなみに、今の段階ではまだ対象外だが、いずれお前が扱うことになるだろう魔物もいる。たとえば、ボアホッグ。猪のような魔物で、突進力が高くて危険だ。肉は硬いが、加工すれば食用になる」
「それから、グラッシィってのもいる。見た目は丸くてのんびりした草食魔物でな。臆病だが、数が増えすぎると畑を荒らす。こいつも肉が柔らかくて、美味いって評判だ」
「……食べられる魔物、ですか」
クロスは驚きつつも、現地での生活のリアルさを実感した。
「まあ、素材も食料も、人間が魔物をどう扱うかで意味が変わるってことだな」
訓練場を後にしたクロスは、その足でギルドの資料室へと向かい、間引き対象の魔物に関する情報を改めて確認した。戦闘にはまだ参加できないとはいえ、魔物と対面する現場に出るというだけで、気持ちが引き締まる。
(準備を怠るわけにはいかない。何かあった時に迷わず動けるようにしないと)
夜、宿に戻ってもクロスの手は止まらなかった。魔物の習性や弱点をひとつずつ読み上げ、頭の中でシミュレーションを繰り返す。
(ようやくここまで来た。次は……その先を目指すための第一歩だ)
翌朝、クロスは少し早めに宿を出て、集合場所となるギルドの前へと向かった。




