初めての村外活動(後半)
風が止まり、森の空気が緊張に張り詰める。
「来るぞ――!」
カイルの掛け声と同時に、一体のスライムが跳ねるように突進してきた。
素早く矢が放たれ、正確にその身体の核を貫く。スライムは一撃で崩れ落ちた。
「核を狙え! 剣でやるならしっかり見極めろ!」
「は、はいっ!」
次に現れた二体目、三体目――クロスは剣を抜き、震える手で構える。
(怖い……でもやるしかない!)
目の前に迫ったスライムに向かい、クロスは剣を振る。
だが、タイミングが僅かに遅れ、刃はスライムの身体を弾いただけだった。
「動きが止まった瞬間を狙え! 焦るな、呼吸を整えて!」
後ろからカイルの声が飛ぶ。
それに背中を押されるように、クロスはもう一度構え直す。
エルは後方で短剣を抜き、補助に回っている。
彼の動きは素早く、スライムの後ろに回り込んで攻撃の隙を作ってくれる。
三人は声をかけ合いながら、少しずつ数を減らしていった。
(怖い……でも、俺は逃げない!)
何体目かのスライムが跳ねかかってきた瞬間、クロスの剣がそれを捉えた。
振り下ろした刃が、中央の核を真っ二つに断つ。ぐにゃりと崩れるスライムの身体。
「やった……!」
だが、息をつく間もなく、また別のスライムが迫る。
それは終わりなき連戦のようだった。体力も、気力も削られていく。
それでも、カイルの矢、エルの支援、クロスの奮闘が噛み合い、最後の一体が崩れ落ちたときには、太陽が大きく傾き始めていた。
「……終わったか……」
クロスはその場にへたり込みそうになる足を踏ん張り、剣を鞘に収めた。
手は汗と血と疲労で震えていた。
「よくやったな。久しぶりの実践だろうに大したもんだ」
カイルが笑って肩を叩いてくる。
エルも小さくうなずいて言った。
「君がいて助かった。ありがとう、クロス」
三人は無事に村へ戻り、ギルドへ直行する。
カイルが代表して任務報告を行い、魔物の排除と薬草の収集が完了した旨を伝えた。
その間、クロスはギルドの壁にもたれて一息つく。
(……怖かった。体も動かなかった。でも、最後には……戦えた)
戦いを終えた安堵と、自分の未熟さを痛感する悔しさが交錯していた。
魔法も剣もまだ未熟。けれど――。
(だからこそ、強くならなきゃいけない)
クロスはその場で、静かに決意を固めた。
剣の訓練をもっと。魔法の理解をもっと。
この世界で生きていくために。
「……負けるわけにはいかないんだ」
誰にともなく、そう呟いた。
その言葉は、自らの胸に深く刻み込まれていた。




