表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
一章
18/167

初めての村外活動(前編)

その朝、クロスは早くから目を覚ましていた。

久しぶりに感じる高揚感と緊張が、胸の奥で入り混じっている。


「ついに、村の外か……」


ギルドでの研修以来、雑用仕事と訓練の繰り返しだった日々。ようやく今日、村の外に出る許可が下りたのだ。


ギルドの玄関前には、先に来ていた二人の冒険者がいた。


「お、来たなクロス。今日から荷物持ちデビューか」


飄々とした調子で声をかけてきたのは、9級の狩人・カイル。

今日は警戒と護衛役を担っている。


その隣に立つのは、10級の短剣使いで薬師見習いの青年・エル。

同年代だが、薬草の知識は豊富で収集任務では重宝されている人物だ。


「おはようございます! よろしくお願いします!」


クロスが緊張気味に頭を下げると、カイルは笑いながら肩を叩いた。


「そんなに構えなくていいって。今日は戦う仕事じゃねえ。あくまで薬草の収集と荷物運びだ。まあ、魔物が出たら退くぞ」


「……僕が収集を担当するから、クロスくんは、採った薬草を籠に入れてまとめておいて。動きやすいように距離は取りすぎないようにお願い」

と、エルが静かに言う。


「はい、分かりました!」


三人は準備を整え、村の南にある緩やかな丘陵地――初心者向けの薬草が多く自生するエリアへと向かった。


森の入り口に差しかかると、空気が一段と静かになる。

野鳥のさえずりと、遠くで風に揺れる草木の音。

それがかえって緊張感を高めた。


「じゃあ始めるか。エル、頼んだ」

「うん」


エルがさっそく地面にしゃがみ込み、薬草の葉や根を慎重に選び取っていく。

その一方で、クロスは受け取った薬草を丁寧に籠へと収めていく。


「……すごいな。迷いがない……」


薬草の形や状態を瞬時に見分け、刃を使わず指だけで根元から引き抜く技術は、まさに経験の賜物だった。


カイルは弓を手に持ちながら、木々の間を見回していた。

何か異変があれば即座に察知できるよう、常に警戒を緩めない。


2時間ほど経った頃、順調に薬草が集まり始めていた。

クロスも次第に緊張が解けてきて、薬草の名前や特徴についてエルに質問する余裕も出てきた。


「……これ、フラナベリーってやつか?」


「うん、それで合ってるよ。熟しすぎると薬効が落ちるから、見分けが大事なんだ」


そんなやりとりの最中、カイルが突然手を上げて静止の合図を出した。


「止まれ。……何か来る」


緊張が走る。

クロスも動きを止め、周囲を見回した。


草むらの一角――そこが不自然に揺れている。


「……スライムか。いや、数が多いな」

カイルの声が低くなる。


次の瞬間、ぬるりとした青緑の塊が草の間から現れた。スライムだ。しかも一体ではない。


「エル、後ろに下がれ。クロスは籠を持ったまま、エルを庇って下がれ!」


「は、はいっ!」


クロスは荷籠を背負ったまま、エルの前に立ちふさがる。

その手は腰の剣の柄を握るが――まだ、実戦経験は浅い。足がわずかに震える。


スライムたちはゆっくりと、だが確実にこちらへと迫ってくる。

カイルが弓を構え、矢を一本、つがえた――。


……緊迫した空気の中、戦闘が今まさに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ