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異世界剣士の成長物語  作者: ナナシ
二章
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旅立ちの前夜、そして新天地へ

夕暮れの柔らかな陽が、ラグスティアの石畳を茜色に染めていた。


クロスが滞在する《月影の宿》の食堂では、テーブルに並べられた温かい料理の湯気が、心なしかゆっくりと立ちのぼっていた。


セラの提案で開かれた、ささやかな“お別れの夕食会”。


集まったのは、パーティメンバーのセラ、ジーク、テオ、そしてクロスの四人だった。


「本当に……もう、行ってしまうのですね」


微かに伏し目がちなセラの声に、クロスは箸を止めた。


テーブルには温かな煮込み料理とパン、宿の女将が特別に用意してくれた焼き魚が並び、どこか名残惜しさを滲ませる空気が漂っていた。


「うん。……でも、行くと決めたから」


「そうかぁ。でも、クロスがいなくなるのは正直、寂しいなぁ」


ジークが半ばふてくされたように言い、テオも「同感だよ」と苦笑交じりに付け加えた。


「俺たち、まだまだ未熟だし、クロスがいたから戦えたことも多かったしな」


「……そうだね。でも、私たちも前に進まなきゃいけないから」


セラの声は静かだったが、どこか言い聞かせるようでもあった。


「セラ。……俺、こっちで色々学ばせてもらった。本当に、ありがとう。三人とも」


クロスがまっすぐに三人を見る。ジークは頷き、テオは少し目を細めた。


そしてセラはそっと微笑みながら口を開いた。


「クロスさん……。私は、貴方ともっと長く一緒に戦っていたかったです。でも……今の貴方なら、どこへ行っても大丈夫ですね。どうか……お気をつけて」


「うん、ありがとう。……そっちこそ、無理しないでな」


セラは柔らかく微笑みながら、ジークとテオの顔を交互に見た。


その夜、月影の宿には四人の若者が集った最後の、そして静かな笑い声が響いていた。



その夜、月影の宿の静かな部屋の窓辺に腰を下ろしたクロスは、カーテン越しに夜空を見上げながら、一人深く考え込んでいた。


(力を持っているってだけで、他人に疎まれたり、嫉妬されたりするのは……正直、もう慣れてきた)


だが、それだけで力を隠して生きるのは、きっと違う。


(黒装束の連中がやってることは、彼ら以外の人が不幸になる。巻き込まれて悲しむ人たちが、いっぱいいる……)


静かに目を閉じ、心の奥底にある決意が湧き上がる。


(だったら…俺がやる。少しでも不幸になる人が減るなら)


クロスの胸に、一つの名が浮かんだ。


(神が教えてくれた嘗て神の代行者としてこの世界を歪めた張本人。“ヴァルミュール・エリュシオン”……あの男を、止める)


それが、今の自分の進むべき道なのだと。




翌朝。


グレイスとともに街を発つその時、ギルドの前には予想外の顔ぶれが立っていた。


「……やっぱり、来てくれたんですね」


クロスは少し驚いた顔で、バルスとフロレアに声をかけた。


「当然だろ。門出の時に見送りもしねぇで、いつ祝えばいいんだよ」


バルスは苦笑しながら、肩を軽く叩いてくる。


「お前との訓練、結構楽しかったからな。また戻ってきた時、もっと強くなってるの期待してるぜ」


「ええ、次は私も少し本気出さないと、追いつかれちゃうかもね?」


フロレアが口元を緩めながら冗談めかして言った。


「……ありがとうございます。バルスさん、フロレアさん。お二人のおかげで、ここまで来られました」


深く頭を下げるクロス。


その姿に、フロレアが少し目を細めてから、からかうように言った。


「そんなに真面目にならないの。あなたが前に進もうとしてるの、ちゃんと見てたわよ」


「……うん。じゃあ、行ってくる」


クロスは最後に、ギルドから現れたミレーナに挨拶をする。


「ミレーナさん。いろいろお世話になりました」


「ええ。セイランは忙しい街よ。しっかり勉強して、働いて、そして稼ぎなさい。……いい意味で、期待してるわよ」


ミレーナはにこやかに微笑み、軽く手を振った。


そして•••クロスとグレイスは、セイランへ向けて歩き出す。


雲ひとつない晴天の下、旅路は静かに始まった。


だが、その背には確かな決意があった。


いつか必ずこの世界に蔓延る「影」を、断ち切るために。


これで第二章完結です


また明後日から第三章突入です

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